===== P2-3 ===== [シリーズ対談] SDGs未来都市の風景を描く vol.03 輝く光の彩りで、まちに活気を 山口不動産株式会社 代表取締役CEO 武藤浩司 × 豊島区長 高野之夫 ここ数年、JR大塚北口駅前が大きく様変わりしています。近代的なビルが次々と竣工(しゅんこう)するとともに、2018年5月には、日本を代表するホテル、星野リゾートの新たなブランド「OMO5東京大塚」が開業。さらに、2021年3月には北口駅前エリアを鮮やかな光の変化で彩る「光のファンタジー」が完成します。華やかな歴史をもつ大塚にふたたび活気と誇りを取り戻す。長年にわたり大塚で不動産業を営み、近年は進化する大塚のまちづくりに積極的に取り組んできた山口不動産(株)の武藤浩司氏と高野之夫区長が未来へのまちづくりについて語り合いました。 大塚を変えたくて星野リゾートを誘致 高野●武藤さんはご実家である大塚の不動産会社を継がれていますが、育ちも大塚ですか? 武藤●小学5年生から大学4年生まで大塚で暮らしました。中学・高校は練馬区に通いましたが、家の場所を聞かれて「大塚」と答えても分かってもらえず、池袋の近くと言うと「すごいじゃん」となる。残念な気持ちになりましたね。 高野●大塚はかつて池袋よりはるかににぎわっていました。大正時代には花街があり、都電が通り、昭和になるとデパートの白木屋もできた。一方で、終戦後、池袋は闇市ができて、今日の発展へとつながる繁華街を形成していきました。私は豊島区長として、栄光の歴史をもつ大塚と池袋が一体となって輝くまちができたらと思ってきました。高い山ほど裾野が広いものです。 武藤●その言葉、好きです。池袋を頂点として、大塚をはじめ豊島区全体が栄えている。 高野●しっかりとした裾野や地盤こそがまちづくりの基本です。ところで武藤さんはどんな経緯で山口不動産の社長になられたのですか? 武藤●山口不動産は10代以上続く母方の家業です。僕はおばあちゃん子で、小さい頃から「会社に何かあったら僕が助けるから」と祖母と約束していました。ですから、自然に経済に関係する勉強をして、会計事務所に入りました。でも20代の終わりに体調を崩して会社を辞めました。当時、祖母の会社の番頭さん的な社員の方が亡くなり、私が経理を手伝うことになり、不動産の仕事をするようになっていったのです。 高野●巡り合わせですね。そんな武藤さんが星野リゾートを大塚に誘致したときは本当に驚きました。誰も想定していませんでした(笑)。 武藤●自社で投資して、大塚駅前にビルを建設し、オリンピックも控えていたのでホテルを誘致することになりました。僕は友人たちに胸を張って「大塚に来てよ!」と言えなかった。通好みの渋い名店はいくつもあるけれど、まちの雰囲気が暗い。どうしたら大塚を変えられるか。ホテルを誘致するなら、相当なビッグネームでなければインパクトはないと思いました。何の勝算もありませんでしたが、星野リゾートに連絡をしたら、「OMO」という都市型観光ホテルの新たなブランドを計画しており、その東京1号店を大塚に誘致できたのです。 高野●そのお話を聞いた時には「武藤さん、本気だな」と思いました。まちづくりは情熱です。愛がなければまちは発展しませんからね。 光の演出でメッセージを発信する 武藤●僕もJR大塚駅北口エリアを彩る「光のファンタジー」の計画を知った時は驚きました。 高野●大塚駅の北口はとても暗い。駅前を明るくしたいというのは住民共通の願いでした。駅前が光輝き、まち全体が明るくなっていく。夜でも安心して食事やお酒を楽しめる。昼は池袋で遊んで、夜は大塚で美味しい食事をする。個人経営の良い飲食店がたくさんありますからね。 武藤●光で大塚を活性化する。すごく共感しました。私の会社では、北口に建設した新しいビルの外側に照明を設けていて、ロータリーの照明と連動して、光の演出ができます。 高野●季節ごと、イベントごとに色を変えたい。クリスマスなら赤と緑、サッカー日本代表の試合がある日はサムライブルーもいいでしょう。ロータリーにある中央モニュメントだけでなく、駅前広場、都電の三角地、商店街の入り口、タクシー広場を同じ色で染めていく。色の光でまちが一体となり、メッセージを発信する。どこもやっていない試みを大塚で始めたいのです。 武藤●大塚の駅に降り立った人も、住んでいる人も感動してくれますね。僕もそんなワクワクする仕掛けをどんどんやっていきたい。今は、北口駅前周辺で所有する6つのビルを連携して、「ironowa ba project(イロノワ・ビーエー・プロジェクト)」を展開しています。 baはbeing associationの略で「つながっていく」という意味。星野リゾート、東京大塚のれん街、カフェ、住居、オフィスなどをつなげていきます。大塚も豊島区も、建物などハード面での整備は一段落しました。今後はそれを有機的につなげながら何をしていくかですね。 区民にSDGsを浸透させていきたい 高野●豊島区は2014年に消滅可能性都市であると指摘されたのを機に、まちづくりの改革に乗り出しました。その将来像として掲げたのが国際アート・カルチャー都市です。文化によるまちづくりこそが豊島区の未来をつくると信じて推進してきました。そのビジョンと方向性が一致するのが、豊島区が選定されたSDGs(持続可能な開発目標)未来都市です。加えて、全国でも10か所しかない自治体SDGsモデル事業にも選ばれました。環境、社会、経済の3つを共存させていくことこそが、豊島区の未来には必要なのです。 武藤●僕は区民にSDGsを浸透させることをがんばりたいです。実際、ほとんどの人がSDGsについて知らないと思いますよ。イロノワ・ビーエー・プロジェクトでは、コミュニティ通貨の「むすび」を始めました。むすびは、大塚のお店と利用者をつなぐもの。お店が「まちのコイン」を提供し、来街者が使うことで自然と交流が生まれます。今、むすびにSDGsを絡めることに挑戦しています。 高野●どんなイメージですか? 武藤●環境に良いことをしたら、経済的な価値を得られてもいいと僕は考えています。電気自動車をお得に買えるエコカー減税と同じ発想です。例えば、ゴミを拾えばコインがもらえる。そのコインをまちのお店やホテルで使えたら、もっとたくさん拾おうとがんばる。SDGsの目標に合わせてメニューを増やせば理解も深まるし、お店側も導入する時に「SDGsって何?」と考えます。まだ実験中ですが、実現したいです。 高野●とても心強いですね。行政がいくら「SDGsが大切です!」と旗を振っても区民がついてこないのであれば意味がありません。誰もが主役となり、誰一人として取り残さない。それこそが、豊島区が描くSDGsの未来像です。 武藤●きっと多くの自治体がSDGsで何をすべきか悩んでいるはずです。挑戦していけば豊島区は存在感を高められるし、ほかの自治体のモデルにもなれると思います。それに区長はまちづくりだけでなく、多くの責任を担っているから僕らが応援しなきゃと思いますよ。僕にとって高野区長は良き上司のような存在ですから。 まちづくりで大塚の誇りを取り戻す 高野●武藤さんはこれから大塚をどんなまちにしていきたいですか。 武藤●僕は大塚をユニークで、オンリーワンのまちにしていきたいですね。大塚に来たらみんながワクワクして、体がぽかぽかになるイメージ。そして、大正時代のような華やかな大塚にあった「誇り」を取り戻したいです。ところで区長、僕は豊島区の色が何色か、気づきましたよ。 高野●お、何色ですか? 武藤●豊島区の「豊」と「色」を合わせると「艶」になります。「あでやか」と読み、華やかで美しい様を表します。この色が大塚、池袋、そして豊島区を表していると僕は思うのです。 高野●武藤さんの豊かな発想、行動力、若さ、スピード感には感動します。積極的にまちづくりに参加してくれるのは本当に心強いです。 武藤●区長の感性と行動力にはまったくかないません(笑)。ぜひ、健康に気をつけてください。 高野●ええ、でも若い人に負けないようやんちゃな気持ちも持ち続けますよ(笑)。ぜひ、今年も豊島区が大飛躍する年にしていきましょう。 profile 武藤浩司 (むとうこうじ)…山口不動産(株)代表取締役CEO。1979年、東京都生まれ。2002年、東京大学経済学部卒業。三井住友銀行、監査法人トーマツを経て、2008年に母方の実家である山口不動産(株)に入社。2018年、同社代表に就任。現在、大塚駅北口エリアを活性化するironowa ba projectを展開中。 進行中! 生まれ変わる大塚の今 光のファンタジー ▲大塚駅北口駅前広場に設置された大きなリングと3つのリングモニュメント。ライトアップにより夜間の安全・安心を確保し、池袋での観劇などの後も余韻を楽しみながら過ごせる光空間を演出します。 ▲星野リゾートOMO5東京大塚 星野リゾートの新ブランドOMOでは都内初。泊まる、食べる、遊ぶが融合した新しいホテルのカタチを提案。 ▲東京大塚のれん街 大正から戦後の面影を残す古民家をまるごとリノベーションした飲食店街。個性的な11店舗が軒を連ねます。