===== P8-9 ===== 想い、継ぐ 先人からの想(おも)いを受け継ぎ、生み出される匠(たくみ)の技、伝統工芸――。時を越え100年以上つなげられてきた技術とその想いを取材しました。皆さんもこの伝統を感じてみませんか。 [問い合わせ]生活産業課商工グループ電話4566−2742 東京三味線 三味線は14世紀末に中国から琉球に伝わってきた三絃(さんげん)がもとになった楽器だ。「天神(最上部)」「棹(さお)」「胴」を分業で作ることが多いが、豊島区や文京区、台東区などで作られる「東京三味線」は「胴」以外の全てを1人の職人が制作するのが特徴だ。棹づくりだけでも100以上の工程があり、熟練の技が試される。 柏屋楽器店 高橋定裕さん 最初は中学生の頃にお小遣い稼ぎで始めたのがきっかけでした。高校1年生の夏休みに通常は2〜3日で仕上げるお稽古(けいこ)用の棹を20日かけて仕上げたんです。それでも一人でできたことが自信につながって、この道に進もうかと思えましたね。東京三味線を作り上げるのは、家を建てるのと似ていて、一つひとつの工程がとても大切なんです。手を抜かず作り続けないと、最後にきれいに仕上げようとしても、粗(あら)が目立ち、納得のいくものができません。妥協せず、根気強く正確に作り続けていく必要があるんですよね。ただ、細かな作業があるからこそ、奏者に合わせた、すべてオーダーのこだわった作品を作ることができるのも魅力です。一人でも多くの人に東京三味線に興味をもってもらえたらうれしいですね。 [キャプション] ▼「音域、音質、音量は皮の張り方と皮質で変化します」 そう語るのは、三代目店主の高橋定裕さんだ。 ▼お正月用に松竹梅と絃(げん)の色を3色使用した作品 ▼「トチという模様のある三味線は棹が振動しやすいからとても貴重。振動し楽器全体から音が出てよく鳴りますよ」と。木材によっても音の違いが出るという。 ▼奏者が何を求めるか次第で皮の張り具合も変わる、奏者に合った音色を構築したいという想いがある。破れる寸前の限界まで皮を強く引っ張った状態で張るときは特に神経を使う。 ▼皮を胴に貼りつけるときの糊(のり)は、白玉粉を練って使う。 ▼のこぎり、ちょうな、かんな、のみ、やすりなどを使って棹を作る。最後は砥石(といし)で磨き上げる。 江戸提灯 提灯(ちょうちん)の読みは中国の宋時代の発音によることから、日本には平安時代に渡来したことが想定される。江戸時代に入り、和ろうそくの生産が奨励されたことによって、日常の照明器具として広く普及した。「江戸提灯」の最大の特徴は、火袋(ひぶくろ)に描かれる意匠が全て「手描き」であるということだ。表面がでこぼことした丸い形状の提灯に、様々な文字、家紋、デザインを自在に描く技こそ、江戸提灯の最大の魅力である。 はや川提灯店 早川福男さん 私は昔から手先は器用な方で、5年くらい修業するつもりが、3年と通常よりも早く独立できました。ただ、独立しても一人ひとり字が違うのと同じように、先代の江戸文字をうまく継承できず、お客さんが思うようなものが提供できないときは苦労しましたね。やっぱりお客さんの喜んでくれる顔が一番ですから。それに私は伝統を継承するだけでなく、自分の個性を活かして新しいことにも挑戦していきました。動物の描写が得意だったことから、動物柄の提灯もその一つです。手作業は貴重な技術。昔から使われていたものが、使い方や見た目が変わっても伝統として今、形に残っていることを誇りに思います。これからも、より多くの人に伝統工芸を伝え、関心を持ってもらいたいです。 [キャプション] ▼三代目店主の早川福男さんは伝統技術を守りながら、個性を活かした現代風な作品にも取り組んでいる。 ▼朦朧体(もうろうたい)をイメージしたヒョウ柄 ▼ブロック・ヒゲ・江戸文字の使い分け表現 ▼下書きはせず慎重に描いていく。文字は輪郭から描いて塗りつぶす。 ▼「自分だからこそできる提灯、自分の色を出していきたい」という想いがある。早川さんは、独自に考案した”ブロック文字”で都知事賞を受賞している。ブロック文字で描いた「戌」。デザインも一から考えるという。 ▼斬新なデザインや鮮やかな色使いの作品は店舗看板やインテリアとして普段使いでき、江戸提灯の新しい風を感じる。