===== P2-3 ===== 誇り高き、このまちの伝統 区には300年の歴史を持つ「長崎獅子舞(ながさきししまい)」という無形民俗文化財がある。 伝統を継承しているのは、小・中学生を含む幅広い年齢層の長崎地域の人々。 地域で大切にされてきた長崎獅子舞への想(おも)いを、次世代へとつないでゆく。 [問い合わせ]庶務課文化財グループ電話3981−1190 黒々とした長い羽根を振り回し、獅子たちが地面を強く踏みつける。毎年5月第2日曜日の長崎神社とその周辺では、五穀豊穣(ごこくほうじょう)と悪疫退散(あくえきたいさん)を願って長崎獅子舞の道行き・奉納が行われている。 3kgほどある獅子頭の中は、舞手には外が十分に見えないほど視界が狭い。繰り返される踊りに息は上がり、汗がにじむ。互いに位置が見えにくい中で、空気を感じ取って全員で振りをそろえる。これこそが伝統芸能である。 長崎獅子舞の始まりは、元禄年間(1688〜1704年)に当時の長崎村の住人が、医者に行っても治らなかった病気が治ったお礼に神社へ獅子頭を奉納したことと言われている。その後も江戸時代に疫病が流行(はや)った際には、病気平癒(びょうきへいゆ)を願って獅子が長崎村中を何度も回ったようだ。 現在、この長崎獅子舞を継承しているのは長崎獅子連・長崎獅子舞保存会の皆さんである。長崎獅子連は幅広い年齢層で構成され、20代のメンバーや中高生も所属している。本稽古は月に一度行っており、その真剣なまなざしは本番さながらだ。 中高生センタージャンプ長崎では、長崎獅子連の中高生を中心に、興味をもった小学生以上を対象に稽古を行っている。そこで指導するのは、ジャンプの卒業生であり、大学院生の山岸佑司さん。伝統をつないでいくためには、自身が次の世代に伝えていく必要があると語る。ジャンプで練習をしている生徒たちは、学校の授業で長崎獅子舞を学んだことをきっかけに参加した人が多い。若い頃から地域の文化や歴史に触れていることが、長崎獅子舞の存在を大きくしている。 [獅子頭(ししがしら)の種類] 太夫獅子(たゆうじし) 獅子のリーダーで、立派な金の角を持つ。どっしり構えていて余裕がある。 仲獅子(なかじし) 若く元気な獅子で、荒々しく踊る。「花舞」では太夫獅子と女獅子を取り合う。 女獅子(めじし) 太夫獅子の妻。雌(めす)なので角がない。芯の通った女性をイメージ。可愛らしい仕草も。 [花笠(はながさ)] 獅子たちが清め舞を行う場所の四隅で、結界を張っている。「ささら」という竹でできた楽器を鳴らし、獅子が付けている踊太鼓(おどりだいこ)に合わせて拍子をとる。 [キャプション] 長崎地域を練り歩く道行きの様子 ジャンプ長崎での練習の様子 長崎獅子舞をけん引する若手メンバー 「民俗芸能inとしま2023」の様子 左から齋藤さん、武津岡さん、山岸さん Interview 残したいこの想い 長崎獅子連会長 喜多山 哲延さん 長崎獅子舞で大事にしているのは、ただ振り付け通り踊るのではなく、「演じる」ということ。獅子の個性を理解したうえで、舞手それぞれがカラーを出していくところに楽しさがあります。私は会長になった時に、この伝統に込められた想いや素晴らしさを、私の代で途絶えさせてはいけないと強く感じたんです。そこで、人前で披露する機会を増やし、言葉で残せるようにブックレットを作成しました。これをきっかけに多くの人に長崎獅子舞を知ってもらえたらうれしいです。コロナが落ち着いてきた頃には、まちで舞を披露すると多くの方に喜ばれました。元々病を治す祈りを込めたものですが、人々をつなぐ存在になっていると感じた瞬間でしたね。最近では中高生の参加も増え、次の世代を指導する若手が出てきたことも大変喜ばしく、頼もしく思っています。地域での支え合いを大切にしながら、これからも盛り上げていきたいです。 [キャプション] ▼豊島区文化財ブックレット1・3 長崎獅子連編集。物語や獅子の種類、振り付けなどをわかりやすく解説しています。区役所本庁舎7階庶務課で配布しています。 このまちを愛すること 長崎獅子連 山岸佑司さん 初めて師匠たちと一緒に舞台に上がった瞬間は、心が躍(おど)りました。同時に、やっと一員になれたという達成感もありましたね。長崎獅子舞の伝統に携わることは、このまちを愛し、ただ住んでいる場所ではなく、より大切なまちとして深く知るきっかけとなりました。今は獅子舞を踊らなくても病は治るし、作物は栄養を与えれば育ちます。伝統芸能に大切なのは、やる意味ではなく、想いです。これからもっと若い世代を巻き込んで、まちを愛する想いをつなぎたい。今はまだ学生ですが、長い間続いてきた歴史を次の世代に伝えるために、これからもこの活動を続けていきたいです。 [キャプション] ▲舞手だけでなく笛方としても活躍 伝統を守るという誇り 長崎獅子連 齋藤実裕さん 現在中学3年生ですが、ジャンプ長崎での練習風景を見たことがきっかけで小学5年生の時から参加しています。同世代のメンバーが入れ替わる中でくじけそうになることもありましたが、「長崎獅子舞の継承者であること」が自分の誇りであり、次の世代につないでいきたいという強い想いがエネルギーになりました。若者の減少によって、長崎獅子舞の継ぎ手がいなくなることを見過ごすわけにはいきません。自分が教わったように、伝統を残したいという気持ちを次の世代に伝え、この先も続いていってほしいです。そして、初めて見たあの時に、興味を持ったからこそ出会えた師匠や先輩との関係性を、これからも大切にしていきたいです。 [キャプション] ▲ジャンプ長崎での練習の様子