資料第5号 全2ページ 1ページ目 障がいがある人の権利擁護のために     解説 令和3年2月5日 社会福祉士 精神保健福祉士 弁護士  太 田 晃 弘 第1 人権について 確認問題 下記 1 ないし 3 に最もふさわしい選択肢を選んでください。 憲法に書いてある基本的人権は, 1  1基本的に国との関係で主張できる 2私人間でも直接適用される 3特定の人しか主張できない ものであるので,施設などでの虐待においては, 2  1人権が問題になることはない。 2憲法が直接適用され,被虐待者は人権侵害の主張ができる。 3民法などの解釈の中に人権の考え方を反映させていくことになる。 したがって,我々庶民が生活をしていくうえでは, 3  1人権のことを考える必要はない。 2職場において人権を考える必要があり,それ以外の場面で人権は無関係である。 3人権擁護の視点を踏まえた振る舞いをすることが重要と思われる。 憲法は,国民が国家に対して基本的人権をまもるように要求するもので,国による不当な人権侵害を制限するためのものです。 従って,憲法に書いてある基本的人権は,基本的に国との関係で主張できますが,私人間 一般の人,会社の間には 直接適用されません。しかし,だからといって私人間でも人権が問題にならないわけではありません。 現に,巨大企業などの大きな力をもった民間部門が,弱い個人を不当に扱ったりすることもあるかと思います。 このような状況の下,裁判所は,私人間に適用される民法などの一般的な法律の解釈の中に憲法の趣旨を間接的に適用して 個人の権利をまもる,という解釈を採用しています。ですので,施設などでの虐待においても,民法などの解釈の中に 人権の考え方を反映させていくことになります。  こうしてみると,我々庶民が生活をしていくうえで,人権が無関係といえるわけではなく, 人権擁護の視点を踏まえた振る舞いをすることが重要と思われます。 1ページ目終わり 2ページ目スタート 第2事例検討 【事例】 エックスとBは平成18年頃から交際を始め,平成21年,両者間に子が生まれた。エックスは,平成21年5月,交通事故に遭い, 高次脳機能障害等が残存した。エックスとBは,平成24年4月23日,婚姻届を提出した。 エックス名義の○○銀行預金口座に,平成23年8月から平成24年11月にかけて,上記交通事故の損害賠償金 合計8200万円が複数回にわたって振り込まれた。 エックスは,平成24年9月7日,保佐開始の審判 保佐人はB。ただし代理権付与はなされていないを受けた。 エックスは,平成24年10月20日,夫婦喧嘩でBから左胸を拳で殴られたなどと訴えて,交番に駆け込んだ。警察署員は, エックスの右肘に擦過傷を認めるなどしたことから,エックスの住所地であるY区担当者にその旨を通報した。 その際エックスは,Y区担当者に対し,警察から離婚を勧められて悩んでいる。Bからは 金を取ったら用なしやと言われているが, 子どもと一緒にいたい旨を述べた。 エックスは,同年11月下旬,Z施設に入所し,同所で生活をすることとなった。その際,Z施設では,上記のとおりの各事実関係に ついて申し送りを受けた。 施設入所後も,エックスの預金は保佐人Bが管理しており,施設利用にあたって必要な各種経費 月額約6万円 について, 滞納するようになった。その滞納額は平成25年11月末日現在で6か月分に及んでいる。当初,Bは,月1回程度, エックスに面会をしていたが,このころにはほとんど面会に来なくなった。 エックスは,平成25年12月のケース会議において,Bと離婚すればお金をすべて持っていかれるから離婚したくないが, 持っていかれないのであれば離婚したい  Bに金銭を管理されることで気遣う面もあるが,困ることはないのでそのままでも問題はないなどと述べた。 問1 エックスさんの現在の生活をめぐってどのような虐待リスクがあるでしょうか 身体的虐待リスク,心理的虐待リスク 「殴られた」の主訴,擦過傷の現認, 金を取ったら用なし やじるし 現在,施設入所になっているとはいえ,Bからのリスクとして考慮しておくべきかと 経済的虐待リスク:多額の保険金あるのに利用料滞納,過去の身体的・心理的虐待 上記 やじるしBが不当に金銭搾取をしている様子が窺われる。こちらは,現在の大きなリスクと思われる。 問2 平成25年11月末段階で,Z施設職員としては,どうすべきでしょうか。 目下,大きなリスクと思われる経済的虐待が疑われる部分に対応できないか,検討すべき。 事実関係のさらなる確認 エックスの預金口座の履歴をXと一緒に確認できないか。 やじるしBから通帳を提示してもらうことも考えられるが,期待できないかもしれない。そもそもBは保佐人とはいえ代理権がなく, 銀行預金口座を管理できるのはエックス本人のみといえるので,エックスが自らの意思に基づいて,直接,銀行に預金履歴を確認できるはず。 エックス自身が銀行で手続をとることについて援助できないか,要検討かと。 エックスの預金口座は,エックスのものですので,エックスが自由に管理・処分等できるはずです。 やじるしエックス自身が施設利用料を支払いたいとの意思を有しているのであれば,エックスに預金口座を管理してもらって, そこから支払ってもらうことも可能かと。 エックスの預金口座からの金銭流出が認められる場合・・・ やじるしエックス自身の意思に基づいて,その預金についてのキャッシュカード・通帳を再発行してもらう 現在,使われているものは無効にしてしまう)ことで, 金銭流出を阻止することも可能かと。 やじるし不当に持ち出された金銭があれば,その返還請求も検討 弁護士などに相談すべき 問3 ケース会議 平成25年12月 でのエックスさん発言をどう捉えるべきでしょうか。 Bと離婚すればお金をすべて持っていかれる やじるし 法的見解に誤解があるように思われます。 そもそも法的な権利義務関係については,法律相談につなげて,そこで弁護士などから見解を得た方がいいかと思います。 法テラスでは,資力の乏しい方向けに無料法律相談をしていますし,市区町村でも無料法律相談をしています。 障がいなどによって法律相談場所まで赴けない方には,出張法律相談や特定援助という制度もあります 法テラスのパンフレットをご参照ください。 上記の誤解をといたうえで,エックスさん自身に意思決定をしてもらうことになるかと思います。 全2ページ終わり