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特別インタビュー 第2弾 前田 三郎氏

更新日:2021年3月9日

インタビュー

国際アート・カルチャー都市チーフプロデューサーの前田三郎さんに、豊島区のアートやカルチャーを用いたまちづくり、豊島区への思いなどを伺いました。
数々の演劇、コンサートを成功させてきた前田さんの考える国際アート・カルチャー都市とは?

想像以上のスピード感

──前田さんは、2年前に国際アート・カルチャー都市構想のチーフプロデューサーに就任されて、進捗状況についてはどうのように感じておられますか?

進み具合については、スピード感は十分にあると思います。

ただ、一つ苦言を呈すると、最初にいろいろなアイデアが出てきた時に、「こういう法令がある」とか、「過去の実績があるから難しい」とかという反応が見られたので、これについて乗り越える方法を見つけることが仕事だと思っています。

この都市構想というのは、目標、到達点が見えています。その到達点に向かって、行政・区民・民間のそれぞれが追求心やスピード感を持ってやっていくことが大切だと思います。

特命大使がまちを変える

──特命大使というかたちで区民の方が参加してきていますが、何を期待しますか?

大使の方々も、今はまだ何をしたら良いかということは見えていないのではないかと思いますし、行政側も応援団を増やしていこうという段階です。国際アート・カルチャー都市構想とは、文化政策だけを考えているわけではなく、そこは入口であって、豊島区全体の都市政策を考えていくことです。豊島区は特徴の少ない区で、具体的なものが見えにくいまちです。より具体的なものが見えてくれば、もっと人が集まり、住む人も増え、まちも整備され、さまざまなことが進んでいきます。アートやカルチャーをその入口にするのだと理解してもらえば、スタート段階での大使の役割を果たしてもらえます。アートやカルチャーは自分たちの未来のまちづくりの入口であると理解してもらいたいですね。

我々が進めるカルチャーというのは、文化的な支えによって生活を豊かにしていこうという考え方です。大使たちがそれを理解すれば、他のまちの人に説明ができます。大使が情報を発信し、外の情報をまちにフィードバックして、もっとより良い政策に置き換えていくというやり方で、それを行政側がどうやって企画に、仕事にしていけるかが大切です。

11人のプロデューサーの能力というのは、それほどのものではないと思いますが、大使が1,000人、2,000人と増えると、この人たちの情報収集力とか、生活に根ざした文化観、芸術観というものが大変な財産になると思います。大使は「応援団」であると同時に、厳しい注文をつけ、苦言を呈してくれます。行政もプロデューサーも、大使とどう関連性をもっていくかが大事ですね。

現代の聖地をつくる

──空間戦略について、プロデューサー側と区の側とで食い違いはありませんか?

ないと思います。プロデューサーは、それぞれ違う分野の方を11人選んでいます。私は音楽、演劇分野ですが、ほかには、デジタルやアニメなどさまざまな分野の人が関わっていますから。前田氏写真

池袋や目白は若者や学生が多いので、現代のアート、現代の文化が栄えるのでは。例えば、トキワ荘はある意味で聖地であり、うまくやれば、豊島区や池袋は現代の聖地になると思います。それが都市政策の牽引役になり、まちに人や情報が集まり、もっとまちを整備しようという動きにつながります。僕の中では、サブカルチャーの聖地である豊島区が、従来から続く日本文化と融合するまちになれば、こんなにおもしろいまちはないのではないかと思います。

──そういう流れを見ると、プロデューサーの方々のブレイクスルーの力がうまく発揮されていると言えるのでは?

はい。ただしプロデューサーは最初に提案させてもらっただけなので、その後の検証をやっていません。具体的なプランとかイベントを組むときに、彼らの世界的な牽引力や知名度を利用するときが来ると思います。ですから提案をもらって、豊島区がどう政策の中に織り込んだのかということを検証したほうが良いと思います。それと、行政がやるべきことは、基本的にインフラの整備です。インフラの整備は民間では絶対にできませんが、それに乗るコンテンツは民間がつくるものです。そこの役割をきちんと分け、民間の活力を高めることで人も集まり、地域にお金が落ち、文化も広がります。今回、劇場ができるのはとても良いことで、区民や大使にとって「うちの区ではこんなことをやっている」と誇りになると思います。

発信してこそのインバウンド

──「国際」をつけた意味とは何でしょうか?

“国際”への私の理解は、インバウンドではありません。豊島区や池袋というまちを国際的に発信していくことが一番大事なことで、発信すれば結果的にインバウンドが来るのです。今、何を発信するかと言えば、このアート・カルチャーでしょう。豊島区がやるのは、現代の日本の文化を世界に発信することです。そうすれば興味のある世界中の人が日本に来ます。そこが聖地となり、その聖地で皆が表現できるようになって、初めて相互の国際化となります。インバウンドをどう受けて、どうサービスするかということばかり考えてしまうと、間違うと思います。さらに海外の人が興味を持ってくれるコンテンツを持たなくてはいけないので、それは民間にやってもらおうということです。

欠点を武器にする

──最後に、前田さんの豊島区、池袋に対する強い思いはどこから来るのでしょうか?

生まれ育ったまちですから、池袋は好きですね。庶民的なまちの雰囲気も気に入っていますし、同世代の仲間もいますから。池袋や豊島区というのは都会ですから、問題点もありますし、欠点も相当多いです。ただ皆が誤解しているのは、欠点はうまく磨けば武器になるということです。その数少ない武器、特徴をいかに育てるかということが今一番必要なことで、豊島区や池袋が持っているメリット、デメリットを分析し、他の地域にできないことをやれば人は来ます。ですから、良いことだけを並べるのは、アート・カルチャーではやってはいけません。このまちの個性に磨きをかけ、他の地域には絶対にないものを見つけることがまちづくりに重要だと思っています。

都会で空が見えるまち

──昔の池袋と今の池袋では変わりましたか?

変わりましたね。サンシャインができたことで、駅から人を引っ張り出したというのが大きいと思います。池袋は、どうやって人を駅の外に出すかということが大きな課題です。それといかに都会で空を見せてやるかという意味で、公園の作り方はすごく大事です。ニューヨークでは、セントラルパークで行政と市民が手を携えてイベントやコンサートをやっています。豊島区もそういう関係性を持てたらいいですね。新しくできた南池袋公園がそんな空間になったらいいと思います。時代に応じてプロデューサーも変わっていくでしょうし、いろいろとリンクしていけば、おもしろいことがたくさんできるのではないでしょうか。

プロフィール

サンシャイン劇場支配人、(株)明治座統括部長を経て、キョードー東京のプロデューサーとして演劇製作を手がけて来た。
(株)キョードーファクトリー代表取締役社長、公共の劇場と提携しての市民演劇的活動にも手を広げている。
(株)キョードー東京取締役、公益財団法人としま未来文化財団評議員

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