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特別鼎談 高野区長×野村万蔵さん×中村梅彌さん

更新日:2021年3月9日

インタビュー

「としま」×「文化」2017年、さらに前へ!

まち全体が舞台の、誰もが主役になれる劇場都市。豊島区が目指す新たなまちづくりを、2017年さらに本格的に展開してまいります。期待が高まる新年の幕開けにあたり、日本の伝統文化の担い手である野村万蔵さんと中村梅彌さんを南池袋公園にお招きし、高野区長と熱く語り合っていただきました。

伝統の継承と変化への挑戦

区長:豊島区は今、国際アート・カルチャー都市構想実現に向けて一歩一歩前進しています。昨年は元文化庁長官の近藤誠一会長をはじめとする国際アート・カルチャー都市懇話会から、実現戦略の答申をいただきました。

豊島区が日本の文化の推進力になるようなまちづくりが着実に進んでいるのではないかと思っておりますが、その日本の文化の中でも、お二人は歴史ある伝統芸能の継承者というお立場でいらっしゃいますね。

中村梅彌氏中村:私は歌舞伎の世界で生まれ育ちまして、近ごろは若い方もたくさん歌舞伎を見にいらっしゃってうれしく思いますが、ただ好きな役者のお顔だけを見ているお客様が多いようでございます。

伝統芸能が長く愛されてきたのは、そこに日本人の生活に共通した思いがたくさんあるからなんですね。

たとえば舞踊の振りひとつにしましても、この動きは実はお酒をついでいる意味なのよとか、そういうことをわからずに見ているのはもったいないと思うのです。

そこをわかって見ていただければ、昔の日本の文化もわかるし、きっと現代にも役立つことがあるはず。まずはそこから伝えたいという思いで、私は一生懸命ワークショップなどを行なっています。

野村万蔵氏野村:皆様が大事な文化だとおっしゃってくださる狂言という一ジャンル、それを確かに受け継いで、次へ受け渡さなければいけない立場になって思うのは、私に狂言を教えてくれた人、支えてくれた人たちへの感謝と、懐古の思いです。

ただ、その思いを強くてば持つほど、古典というのは形を崩せなくなる。

でも、崩さないと時代に取り残されてしまうかもしれないという一面もあります。ですから、古典の良さを追求し継承し、また何か崩したり工夫したり、両方の挑戦をしながら、現代に必要性のあるものにしていかなくてはいけないと思っております。

大事なのは、変わらずに繋いでいくのではなく、変わりながら、肯定しながら否定しながら、その時代時代の人が一生懸命考えて、時代と共に生きて継承していくことだと思います。

2020年に向けての出発

中村:私も、現代の人に受け入れてもらえるように地道な努力を続けていくしかないと思っております。

先ほどの踊りの振りで言えば、たとえば舟の艪を漕ぐ動きなど、私たちですら実際にはやったことがございませんし、あまり見たこともありませんから(笑)、全く知らない現代の人たちに教えるのは、外国人に教えているような感じですね。

野村:でも一方で私は、そうしたわからない部分はかえって武器だとも思うようにしているんです。よくわからないながらも、海外の人が日本のアニメなどを「かっこいい」「クールだ」と思うのと同じ感覚で、若い人たちも感じ取ってくれるのではないかと、肯定的に考えるようにしています。

区長:すべて文化というのは歴史があり、歴史の上に成り立ち、そして新しい文化が生まれるんですね。

昨年11月の野村先生演出による「大田楽 いけぶくろ絵巻」では、田楽とコスプレが一緒になって大変盛り上がりましたね。こうした新しい取組みによって、伝統芸能が新しい文化を受け入れていく。かなり画期的なことだと感動いたしました。

大田楽いけぶくろ絵巻奏上

野村:大田楽をはじめたのは亡くなった兄(八世野村万蔵)ですが、私どもの家は生まれも育ちもほぼ豊島区ですから、昨年池袋で初めて大田楽ができたことは、きっと兄も喜んでいると思います。

コスプレ衣装をまとった人たちと一緒にやるのは私も初めての試みでしたが、大田楽のような古い芸能が、演じる地域の特色や現代の新しいものを組み込んで吸収していけるのは、日本の伝統文化というものが大きくてしっかりしているから、揺るがないんですね。コスプレが入ったら田楽ではなくなってしまう、とはならず、融合できるんです。

昨年の開催はまだ手探りの出発でしたが、2020年に向けて毎年盛り上げていきますよ。私の夢は、グリーン大通りを封鎖して大田楽をやりたいなと(笑)。

区長区長:2020年までには庁舎跡地エリアに8つの劇場が完成しますし、新区民センターには畳敷きの稽古場もできます。

新ホールで歌舞伎公演を見てもらい、稽古場は区民を中心としながら伝統芸能を育てていくオープンな場にと考えておりますので、ぜひまたご指導いただきたいと思います。

中村:池袋駅はたくさんの路線が乗り入れていて、「歌舞伎座までは遠いけど池袋なら近いわ」という方も多いでしょうから、完成したら豊島区以外からも大勢いらっしゃると思います。

畳敷きのお稽古場では日本舞踊のワークショップなどもできるでしょうし、お着物やお扇子を持っていらっしゃらない方には私どもでお貸しして体験していただくこともできますね。

心から誇りに思える豊島区へ

高野区長区長:数年前、豊島区が消滅可能性都市と指摘を受けた時は大変ショックでしたが、ピンチをチャンスに変えて新しいまちづくりにチャレンジし、ひとつひとつ成果を上げて、これから国際アート・カルチャー都市として世界へ発信できる可能性が見えてきました。

心から誇りに思える豊島区へと一歩一歩進んでいく、2017年はまさにスタートの年ではないかと思います。

中村:そうした豊島区の目指す形に受け入れていただけるよう、私も地道な努力を続けていきたいと思っております。

弟の八代目中村芝翫も今年12月まで襲名披露興行が続きますので、一度も歌舞伎を見たことがない方にも、これをきっかけに足を運んでいただけたらと思っております。こういったきっかけの場を、豊島区から生みだせたらいいですね。

野村:私の子どもの頃と比べて様変わりと言っていいほど、豊島区はここ最近どんどん良い方向に変わって、活気があって、とてもうれしく思っています。まちづくりの中心に文化を据えてくださっている高野区長のおかげだと思います。

私も区民の一員として、地道な取組みももちろんやりながら、大田楽のような「豊島区ここにあり!」という派手なこともできるように、そこに区民の皆様が集まって憂さを晴らしたり(笑)、元気になれるようなことを、毎年続けられたらと思っております。

区長:本日は大変心強く有意義なお話を伺えました。奥深い古典芸能、そして新しい文化も融合しながら、2020年には来日した人がみんな豊島区に来るような(笑)、それぐらい大きな思いを持って、文化で大きく前進していく手本となるまちをつくっていきたいと思います。ありがとうございました。

プロフィール

九世野村万蔵 プロフィール

和泉流狂言師。野村万蔵家九代目当主。一門の組織萬狂言を主宰。古典のみならず、狂言とコントを融合させた「現代狂言」や、中世の芸能「田楽」を現代的に蘇らせた「大田楽」の演出など、文化芸術の発展に尽力。重要無形文化財総合認定保持者。としま能の会や子ども向けの狂言教室など、豊島区の文化事業に協力。

二代目中村梅彌 プロフィール

日本舞踊中村流八代目家元。平成24年3月、先代家元で父の七代目中村芝翫の遺言により家元を継承。一般向けに歌舞伎舞踊体験の場を設けるなど広く日本舞踊の普及に努める。平成27年度日本芸術院賞受賞。豊島区国際アート・カルチャー都市懇話会委員

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