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特別対談 高野区長×観世喜正さん

更新日:2021年3月9日

インタビュー

歴史と現代がコラボする 「としま」の文化発信力

日本が誇る多様な文化の魅力を世界に発信する、国際アート・カルチャー都市へ。
そんな豊島区の将来像について語り合いたいと、高野区長が訪れたのは、神楽坂にある矢来能楽堂。
ゲームやアニメとの融合など新たな視点で能の継承に努め、「としま能の会」でもご活躍の能楽師・観世喜正さんと対談しました。

文化の発祥は人が集う場所から

能楽師・観世喜正さんの写真区長:豊島区が目指す国際アート・カルチャー都市構想の一環として、昨年4月に南池袋公園をリニューアルいたしまして、昨秋にはここをメイン会場に狂言師の野村万蔵先生演出による「大田楽いけぶくろ絵巻」を開催し、大いに盛り上がりました。
日本の古典芸能は野外から生まれたという話も聞いておりますので、私はこの公園に能舞台をつくりたいと考えているんです。

観世:おっしゃる通り、「芝居」という言葉があるように、もともと古典芸能は野外の芝の上で行なわれていました。かつて奈良の興福寺の薪能(たきぎのう)では、事前に僧兵が芝の上に半紙を敷いて足で踏み、芝の湿り具合で上演できるかどうか確かめていたそうです。
また、能はもともと神事ですので、お寺や神社の境内で行なわれていたのですが、昔はそれらが最も人が集まる場所でした。
人が集まる所に必ず芸能があって、そこで流行が生まれ、文化の発祥地になっていったんですね。南池袋公園はまさに、かつてのお寺や神社に代わり、区がそういう場所をつくったということでしょうね。

区長:南池袋公園以外にも、新たな文化拠点として庁舎跡地エリアに8つの劇場をつくる計画が進んでおりますが、その中で新区民センターには和の稽古場もできます。
喜正先生は一般の方に能のお稽古などもされていらっしゃいますね。

観世:能は江戸時代から習い事として行なわれていましたので、現代の人にも入りやすい体制を整えれば興味を持っていただけるのではと、体験講座などを開催しております。
これまで多くの方にご参加いただき、そのまま能のファンになってくださった方もいらっしゃるので、発信をきちんとしていけばまだまだ多くの方を惹きつけられる芸能なんだなと実感しております。

600年前の能とアニメの共通点

 

観世:私が若い頃は、音楽でも芸能でも「欧ものがかっこいい」という風潮がありました。しかしちょうど21世紀に入った頃、和のブームといいますか、日本文化を見直す風潮が自然な流れで現れてきました。
たとえば以前は花火大会などで女性が浴衣を着ても、彼氏は「浴衣なんか嫌だ」と(笑)。それが今はカップルで浴衣を着ている若い人も多いですね。能を含め古典芸能に
対しても、興味を持ってみようという雰囲気があると感じています。

区長:昨年、喜正先生がご出演された「第29回としま能の会」には、若い人がたくさん観にいらしていましたね。こんなことは「としま能の会」の長い歴史で初めてで、私も驚きました。これは喜正先生と人気ゲームとのコラボレーションで作製したパンフレットが非常に注目を集めたおかげで、あまりの人気にこのパンフレットは私の手元にもなくなってしまったほどです(笑)。

小鍛冶

「第29回としま能の会」にて人気ゲーム
「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボレーションを実施。
©2015-2017 DMM GAMES/Nitroplus

観世:最近のゲームやアニメでは、歴史に根ざした事象をキャラクターにして描いており、それが斬新だと大変人気になっています。これは実は、能が600年前からやっていたことなんです。
昨年「としま能の会」の「小鍛冶(こかじ)」という演目で私が演じた稲荷明神という役は、600年前当時では「神様でございます」なんて舞台に出てくるのは荒唐無稽なことだったと思うのですが(笑)、ある意味同じようなことを今ゲームやアニメの世界でやっている。
ですので、両者が現代になって融合したというのは、ごく自然なことだと言えるかもしれません。

区長:今日は、来月30日開催の「第30回としま能の会」のパンフレットに載せるキャラクターの原画をお持ちいただいたそうですが……。

高野区長と観世喜正さん観世:こちらです。豊島区に仕事場がある漫画家の藤田和日郎先生に、今回の演目「土蜘蛛(つちぐも)」のイメージで描いていただきました。
能だけの世界観ではなく、マンガやアニメなどいろいろなアートとこうしたコラボレーションができる、歴史と現代の接点がこういう形になっていくということを、ぜひアピールしていきたいですね。

区長:素晴らしい絵ですね。第30回という記念すべき節目に、「としま能の会」がさらに大きく広がっていく予感がします。

新たな人の流れが生まれる期待

観世:「としま能の会」は、サンシャイン60の下で行なわれた「としま薪能」が始まりで、私が最初に出演したのは大学生の時でした。
静かな森やお寺の境内ではなく、すぐそこにサンシャイン60がそびえている光景は、とてもインパクトがありましたね。古典芸能と現代のものとのマッチングということが、その頃から取り組まれていたわけです。
能は古典芸能の中でも特に縁が遠いように思われがちですが、先ほど申しましたように薪能など野外での「芝居」は昔から芸能の最初の入り口として機能してきた興行です。
それが引き継がれて今の「としま能の会」となっているわけですから、そういう意味では決して手の届かないものではないと思います。最初に区長がおっしゃった、南池袋公園に能舞台をということが実現すれば、野外でも屋内でも伝統芸能が観られて、観に来る人の新しい流れも生まれるのではないでしょうか。

高野区長区長:南池袋公園は空がとてもきれいですからね。夜は星がきれいですし、改めて豊島区にあんな空があったんだなと感じるぐらい素敵な公園になりましたから、多くの人に訪れてほしいですね。

観世:また、新たな人の流れという点では、日本を訪れる外国の方も増えていますね。そうした方や能が初めての若い方にも気軽に足を運んでいただけるよう、私は一昨年から上演中にタブレット端末で演目の解説などの情報を多言語で提供する試みも進めております。

区長:それは良い試みですね。この3月には国際アニメーション映画祭「東京アニメアワードフェスティバル」が池袋で開かれるなど、国内外に向けて池袋はアニメの聖地としての実績を積み上げております。
しかしそれだけではなく、同時に日本文化の基本である古典芸能を大事にして、それらを融合させることで世界から多くのお客様を招き入れられる豊島区になると考えておりますので、ぜひ今後ともお力をお貸しいただきたいと思っております。

観世:豊島区のまちづくりを古典文化と一緒にとおっしゃっていただけるのは、私も大変ありがたく、心強く思います。何より、新しい文化と融合してというのが、非常にうれしいことです。

 

観世喜正 プロフィール写真

道成寺(左上)、松風(左下)、第29回としま能の会 小鍛冶(右)

プロフィール

観世喜正 プロフィール

観世流シテ方。父・観世喜之氏に師事。公益社団法人能楽協会理事。
東京を中心に国内外の公演に多数出演するほか、講演や体験教室、多言語で演目の解説などを配信するタブレット端末の導入など、能の普及に多角的に取り組む。

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