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豊島区で古くから伝(つた)わってきた民話(みんわ)『雑司が谷鬼子母神の玩具(がんぐ)すすきみみずく』を素材(そざい)にして新しく作り直(なお)された紙芝居(かみしばい)「すすきみみずく」をご紹介(しょうかい)しています。
むかし、むかし、雑司(ぞうし)が谷(や)のもりに、鬼子母神(きしもじん)というおどうがあって、としをとった一ぴきのみみずくがすんでいました。
みみずくは、大きなめだまをぐるりぐるりとくいそうにはなしはじめました。
「みなさんや、みみずくちゅうもんは、よる、めをひからせて、ひるは、ねているとおもうじゃろ。まあ、そんなところはあるが、このわしはちがうぞ。ひるまも、ちゃーんとみはっておる。
さあ、わしのはなしをはじめよう。」
雑司(ぞうし)が谷(や)に、くめというむすめがいました。
くめが、ちょうど、十さいのときです。ある日くめとおかあさんは、鬼子母神(きしもじん)のさんどうで、すずめやきをうりながら、おとうさんのおそいかえりをまっていました。
もう、とっぷりと日もくれ、いままで、にぎやかだったさんどうには、ひとどおりがまったくありません。
「あんまり、おそくまではたらかないでくださいと、あれほどおねがいしておいたのに。」とおかあさんはしんぱいそうです。
くめのおとうさんは、すずめをおいかけていて、がけからあしをふみはずして、しんでしまったのでした。
もう、すずめをとってくるおとうさんはいません。おかあさんは、ないてばかりいられません。おとうさんのかわりに、いっしょうけんめいはたらきました。くめのねているくらいうちからおきて、はたけしごとをしました。ゆうがた、おもいあしをひきずってかえってくると、よるは、くらいあかりの下で、よその人のきものをぬうのでした。
まいにち、まいにち、くろうがつづきましたので、とうとう、びょうきでたおれてしまいました。
くめは、かみさまにおねがいしました。
「かみさま、どうか、おかあさんのびょうきをなおしてください。」
くめは、おかあさんのかわりに、いっしょうけんめいおいのりしました。けれども、おかあさんのびょうきは、わるくなるばかりでした。
くめは、おかあさんのかんびょうをしたり、たべていくために、はたらかなければなりません。
「ねんねよう おころりよう」
「ぼうずのなきごえがうるさい!
はやくでていけよ」
「すみません、すこし、あまやどりさせてください。
はなおがきれてしまったの。ぼろきれもください。」
「うるさい!ただでやれるものはない!」
やっと、やっと、あたりがくらくなりました。
「ごくろうだったね。」
あかちゃんのおかあさんから、こもりのおれいにいただいた、いもや、やさいをりょうてにかかえて、くめは、おかあさんのまっているうちへいそぎます。
よみちをあるいてきて、ぽーっとともったわがやのあかり……
なんとあたたかでしょう。
くめは、ほっとしてなきだしそうでした。
くめは、お百度(ひゃくど)まいりをおもいつきました。
「くめ、おまえのからだもだいじにしてね」
おかあさんは、ふとんの中から、よわよわしいこえでなんどもいいました。
くめは、あめの日も、かぜの日も、まいばんかけるようにして、鬼子母神(きしもじん)のおどうのまえをいってはおがみ、もどってはおがみ、百(ひゃく)かいくりかえしました。
お百度(ひゃくど)まいりをはじめてから、六十日たちました。
だんだん、さむさがましていきます。
小さいくめは、いっしょうけんめいでした。
八十日がたち、九十五日がすぎて、とうとう、満願(まんがん)の日がちかづいてきました。
あたりは、いちめん、すすきののっぱらになっていました。
「おかあさん、はやく、よくなって!」
満願(まんがん)の日のよる、くめは、とうとう、さんどうにたおれて、ねむってしまいました。
どのくらいたったでしょうか。
一ぴきのちょうがあらわれて
「くめや、おまえのきもちはよくわかりました。このあたりは、すすきのおおいところですから、これをかりとり、そのほで、みみずくをつくり、おどうのまえでうるとよいでしょう。」
はっと、めがさめると、鬼子母神(きしもじん)のけやきの上で、みみずくが「ホー ホー」とないています。
くめは、すすきのほで、みみずくをつくりはじめました。つくってはこわし、またつくり、なかなかできません。
「やさしいおかあさん、どうしてもなおってほしい」
くめは、いっしょうけんめいです。そのようすを、おかあさんは、ふとんの中からじーっとみていました。
すすきのほは、だんだんおかあさんのように、やさしいあたたかなかたちとなってできあがっていきました。
「すすきみみずくをかってくださいな」
「まあ、かわいい!」
「えんぎがいいんですって!」
鬼子母神(きしもじん)に、おまいりにきた人は、だれもがかってかえりました。
すすきみみずくは、大ひょうばん、つくればつくるほど、とぶようにうれました。
やっと、くめは、おかあさんをいしゃにみせることができました。
いもでんがく、やきだんご、おいしいものをたくさんたべさせてあげられるようになりました。
おかあさんのかおいろは、日ましによくなって、おきられるようになりました。
「くめ、ありがとう。これからは、おかあさんもいっしょに、すすきみみずくをつくるよ。」
くめは、しあわせでした。
鬼子母神(きしもじん)が、ちょうに、すがたをかえてたすけてくださったのだと、くめはおもいました。
そこで、かみをきり、ちょうをつくって、すすきみみずくにそえました。
これがまた、孝行(こうこう)ちょうとよばれて、よくうれました。
「すすきみみずくをかうと、くめのようなかんしんな子になれるんですって」
「びょうきもなおるよ」
「ながいきするよ」
「まよけにもなるの」
「さて、さて、わしのはなしは、これでおしまいじゃ」
けやきの木の上のおじいさんみみずくは、まんぞくそうにまるいむねをはって、うたをうたいはじめました。
すすきっぽォ
すすきっぽォ
みみずくつくろか
うさぎにしようか
よみせのみみずく
おおいばり
きっぽォ きっぽォ
すすきっぽォ
おわり