としまの魅力 > めぐる > 地元の人のオススメスポット紹介 > 30年以上通いつめたパン屋が行列店になっていた件
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更新日:2025年9月29日
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ベーカリーハラダ
カレーパンは心の旅
揚げたてのカレーパン。
揚げたてのカレーパン。
揚げたてのカレーパン。
ほら、もう、頭の中がカレーになってきたでしょう。
カレーパンにはそういう魅力がある。
歯をサクリと立てるとフワリとパンに行きつく。
油と炭水化物のよろこびに浸っているところに怒濤のカレー味。
お皿によそわれていないのに、こんな人を幸せにするカレー料理、あるかな?
お皿によそっても絵になる。ふしぎ!
小学生のころ、そう思わせてくれたパン屋がある。
ベーカリーハラダ。
椎名町サンロードの端あたりに位置する手作りパン屋さんだ。
サンロードは昔、歌舞伎町みたいに真っ赤なライトがピカピカしてる門というかアーチみたいな建造物があって、子供心になんかすごいと思っていた。
そのすごいアーチの向こう側にぽつりとあったのがベーカリーハラダだった。
もう30年以上前の話だ。
当時、小学生だった私が食べられたパンと言えば、誰でも知ってる大手メーカーのパンばかりだった。
ビニール袋に入ったそれは、ふにゃりとした食感。
生地はフワフワ系でメリハリに乏しい。
食べてみれば漫然と「ああカレーですねこれは」としか言いようがないものだった。
それがカレーパンという食べ物だと思っていた。
だから不満は無かったのである。
しかし、それが覆された。
ヒクソン・グレイシーがマウントを返すよりも早いスピードで。
価値観があっけないほどやすやすと変わった。
変えたものが、この店のカレーパンだ。
ある日、ほんのちょっとした好奇心からベーカリーハラダを知った。
椎名町のゲームセンター(今のマツキヨが入っているビル)へ行く途中、いつも見かけて気になっていた。
自転車で椎名町の古本屋やらゲームセンターやらへ行くのが、当時の私のお休み(お一人様)コースだったからだ。
ベーカリーハラダに並んでいるパンは私が知っているパンとは違っていた。
スーパーマーケットで並んでいるものとは違う。
裸である。
裸のままでショーケースに並べられていたのだ。
子供心に、それは一種の様式美を感じる光景だった。
ショーケースの中のパンは、不思議な存在感を放っていた。
見たことのないものがたくさん並んでいて、惹きつけられた。
特にカレーパンが刺さった。
「これがカレーパン?」
真っ先にそう思った。
油の照りが美しい。
湯気でケースの手前側が軽く曇るほどだった。
できたてアツアツ感がほとばしっていた。
生まれたての赤子が勢いよく鳴き声を吐き出すように、カレーパンは勢いよく水蒸気を吐き出していた。
そんな光景はじめてだった。
だから、少ないお小遣いを使う気になったのだと思う。
今も店頭に立つ、大女将が接客してくれていた気がする。
純白の紙袋に入れられたカレーパンは熱かった。
油と熱気で白い袋がみるみるうちに透けてゆくのがわかった。
このパンは生きている!
子供なのでそんなことも感じた。
感じたが、食欲が好奇心に勝り、かじりついた。
カリッ!
サクッ!
フワフワ……
からのモチモチ~!
そんな感じの触感だった気がする。
パン生地を噛んでわかる強烈なコシの強さ。一口ごとに噛み応えがある。
そして、カレーフィリングのジャガイモっぽい食べ応えが記憶に残っている。
以来、私にとってこの店は特別なものになった。
当時とくらべると、今は押しも押されもせぬ人気店となったかに見える。
土曜日に、こんな光景をよく見かける。
ベーカリーハラダの前を通りがかった人がショーケースを見る。
パンがある!
そうわかるとお店に入ってゆく。
入ってゆくお客さんを見かけた人が、はたしてショーケースを見る、すると。
パンがある!
と分かって並ぶこととなり、これが繰り返されることで行列ができるのだ。
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「パンがある!」日のベーカリーハラダ。パンがある!
今となっては並ぶことがちょっと楽しくなってきた。
平日に仕事をがんばった自分へのご褒美。
そんな気持ちでベーカリーハラダに通っている。
2019年にリニューアルオープンしてからだったろうか?
ずいぶんとパンの種類が増えた。
昔馴染みのあんぱん、ジャムパン、クリームパンに総菜パン……。
そこに、オシャレな仲間が加わった。
チョコレートキューブ、ミルクフランス、くるみチーズなどなど。
総菜パンで言えばペッパーチキンにクリームチーズサーモンか。
枚挙にいとまがないくらいの挑戦を目の当たりにしてきた。
直近の数年間だけでも、「かのこ」という、小豆の粒立ちを楽しめるパンがあった。
「タルト」という果物を使ったスイーツ的なパンにあった。
これが「かのこ」。大納言(たぶん)
今は「ジャンボン」というハムサンドのようなものがお気に入りだ。
これらは代替わりによってもたらされたものに感じられる。
私がこの店と出会ったころからある「昔馴染み」はもちろん美味しい。
そこに、「ニューフェイス」が加わることで、店全体の魅力がさらに増した。
こうして商いとは続いていくものなのかもしれない。
アツアツのカレーパンをかじりながらそう思う。
長く続くパン屋には味以外の何かがあるのではないか。
時間を越えてつながる記憶、地域との結びつき、あるいは信用・信頼。
親から子へ、地域の人たちの間で受け継がれてきた思いと味が、今もこの店にはしっかりと息づいているのかもしれない。
そこで、ボランティアライターとしてのインスピレーションが沸騰した。
この店をもっと多くの人に知ってもらいたい。
子どもから大人まで、世代を超えて愛されている理由を、伝えてみたい。
そこで。
ベーカリーハラダで直接お話を伺ってみた。
仕込みの日にお邪魔してきました!
ベーカリーハラダはご家族で経営している手作りベーカリー。
大女将、代表を務めるお兄さん、その奥様と協力してお店を切り盛りしているとのこと。
今回の取材には、先代の次男さんが対応してくださいました。
――このお店、少なくとも40年くらい前にはあったと記憶しているんですが、いつごろからあるのですか?
次男さん(以下、「弟さん」):創業は……確か52、3年前くらいだったから……(資料を確認して)ああ、分かりました。1973年ですね」
――創業50年超!? もう立派な老舗ですね!
弟さん:まあ、あんまり意識はしてないんですけど(笑)
――椎名町のあたりも、椎名町駅に近い「マザーエイラク」が無くなり、千早の方にあった「まるじゅう」が無くなってしまって、昔からの手作りパンのお店が少なくなってきたように思います。
弟さん:マザーエイラクさんは知ってましたが、そうですか、ほかにも……そう考えると、続けられていることが嬉しいですね。
――私は80年代あたりからこのお店に通っていて、勝手に「代替わりがあった」と思い込んでいるのですが、合っていますか?
弟さん:はい。合っていますよ。
――先代、お父様ですか。どういった方だったか覚えていらっしゃいますか?
弟さん:どういう人だったか……うーん。良くも悪くも職人気質な人でしたね。この店を開くために、色々な苦労はしたようです。
――と、おっしゃいますと?
弟さん:色々なパン屋で修業していたようです。そうだ!(ノートを取り出してきて)これを見てみてください。
豊島区重文級史料(個人の感想です)
――すごい! A5判くらいのノートがガムテープで表紙を補強されている……手書きの文字といい、歴史を感じさせる作りですね。郷土史料のようです。
弟さん:これ、ページごとにパンのレシピが書いてあるんですよ。
――ほんとですね。「メロンパンの皮」みたいなものまで書いてある。単位は「匁」……尺貫法の頃ですね。
弟さん:最後に修行していたのが「池袋の丸十」だったようです。先代が亡くなった後は、このノートに残されたものがすべてでした。ここに書かれているものが、ベーカリーハラダの原点と言っていいかもしれません。
――なるほど、今のベーカリーハラダにはない「シベリア」までありますね。本当に、色々な味をどん欲に取り入れようとしていたことが分かります。創業に賭ける意気込みが伝わってきます。
弟さん:直接父親から指導を受けられたのは5~6年くらいでしたが、私にとっては本当に貴重な時間でした。
――代替わりの前後では変わったことはありますか?
弟さん:変わったこともあったとは思います。代替わりのタイミングがけっこう突然だったもので、いろいろ大変でした。
――とおっしゃいますと?
弟さん:まず、兄が引き入れられて後を継いだんです。私は外で修業を終えてから、ここに戻ってきたような感じ。兄と二人で作っていたころは試行錯誤する楽しみがありました。
――それは、フランスパンっぽい生地のパンが店頭に並びはじめた頃ですか? ベーコンエピとかチョコレートキューブとかオシャレなものが並びはじめて「あれ?」と感じた記憶が。
弟さん:そうですね。私と兄の代になって加わったものが、そういったあたりかなと。フランスパン生地のものは自分が加わってからかな?
ベーコンエピ。ワインに合う!
――クリームパンのクリームも、「あれ?」と感じた記憶があります。
弟さん:あれは私が替えました。自分が学んだものを採り入れました。自分でも、いいものに仕上がったと思っています。
――そうですよね!? 当時「あれ? スイーツになった!」って感じがしました!
弟さん:ありがとうございます。先代の遺してくれた味だけではなく、せっかく学んだことがあるのだから、それを活かしたいという気持ちがあったように思います。
――時代やお客さんのニーズに応えて、変わってきたといった感じでしょうか?
弟さん:うーん……そうかもしれません。新商品が生まれるきっかけは、一概に「これ」とは言いづらいですが、時代の流行であるとか……お客さんの好みであるとか……自分の挑戦であるとか? そういったものが混ざりあって生み出されたと思っています。そして、お客さんに喜んでもらえるものが残って行きます。
――言われてみれば「タルト」という商品名で、サクランボやブルーベリーのコンポートが乗っかったようなパンがありましたね。
一時期並んでいた「タルト」。やさしい甘さ。
弟さん:よく覚えてますね(笑) いろいろ、その時々で、できることを試しています。
――今もお兄さんとお二人で試行錯誤をしていらっしゃるんですか?
弟さん:兄には、現在は代表としてがんばってもらっています。心の支えです。若かったころに比べると、こういう個人の商いを家族でやっているので、皆で協力してできることを精一杯やっています。
――逆に、変わらなかったものはありますか? 個人的には焼きそばパンとカレーパンの味は、昔からあまり変わっていない気がします。
焼きそばパンとカレーパン。癒やされる茶色
弟さん:父の頃から残っているスタンダードなパンについてはほとんど味は変わっていないはずです。食パン、バターロールなんかそうですね。
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ふわりと柔らかでなめらかなバターロール
――カレーパンなんか、ホントに子供のころに食べた味と変わらないなと感じます。でも、自分では作れない味なんですよね……。
弟さん:(苦笑)いや~……カレーパンも焼きそばパンも、そんなに原材料に凝っているわけではないのです。焼きそばの麺だって、スーパーの焼きそば用のコーナーに行けば売っているようなものです。身近な材料を使っている。スパイスもベースは既製品なんですよ。でも「ウチと同じ味」を出せるかというと、そうではないかもしれない。やはり、長い間の商売で、お客さんとのやりとりの中でゆるやかに変化したものがあるように思うからです。積み重なった歴史がハラダの味になっているのかもしれませ。「今の味が最高」と思えるものを毎日こしらえるように努めています。
――長くやっていてちょっとずつ変わっていく味がある。一方「これだけは変えたくない!」とこだわってるものはありますか。
弟さん:食パンと(サンドイッチに使う)ドックパンの味です。あれは「変えたくない」と意識して造っています。
言われてみれば、ドックパンはどんな具にも合う
――そのわけを教えてもらえますか?
弟さん:私が父に直接教えを受けることができた貴重な時間――そこで授けられた味だからです。だから、味を変えないようにこだわっているのです。食パンもドックパンも毎日でも食べてもらえるものです。だから、どちらもお手頃で美味しいものを、と心がけています。それが、ベーカリーハラダの守るべきものだと考えているんです。
――土曜日あたり、店の前を通るとだいたいパンが売り切れているように感じます。
弟さん:土曜日はどうしても……確かに、並べた先から無くなっていくように感じます。ウチも作れる量に限りがあるとはいえ、お客さんに申し訳ないなとは思います。
――私と同じような思いをしている一見さんがいるかもしれません。できれば、狙い目の曜日や時間帯があったら教えてください。
弟さん:やっぱり、平日ですかね。ランチタイムに合わせるため、調理パンはだいたい午前中には揃っているはずです。菓子パンはやっぱり「おやつ」の時間に合わせるので、だいたい……午後3~4時ごろだと、アンパンやクリームパンなんかは手に取りやすいと思います。
――通っている印象だと、フランスパン系の生地のものもそれくらいな気がしています。
弟さん:そうですね。カレーパンなどの揚げパン、フランスパンの生地のものは、調理パンとは並ぶ時間が違います。フランスパンが1日に2回です。1回目が午後2時ごろ、2回目が午後5時ごろですね。カレーパン、ねじりドーナツなど揚げ物系はやっぱりアンパンとかの菓子パンと同じくらいの時間になっちゃうかな。
――これまで地元に密着して長く商いをしていらっしゃった中で、お客さんに関するエピソードはありますか?
弟さん:エピソード……うーん。そう言われても。
――お得意さんとか、馴染みのかたとか、ご新規さんとか、色々なお客さんとの間で「こんなことがあったな」的なものをいただけると!
弟さん:あ、そうだ。子供の頃から通っていたお客さんが居まして……その子が、大人になって結婚して、子供を連れてきてくれたのは嬉しかったですね。
――百年商店のパターン! 子供が大人になって子供を……いいですね!
弟さん:やっぱり、子供にも親しみやすい味、というあたりに気を付けているものですから……ほんと、やっていて良かったと思いました。
――他に何か思い当たることはありますか?
弟さん:そうですね、毎日通ってくれているお客さんがいます。
――毎日!? 休みの日もですか?
弟さん:まさか(苦笑) 店を開けている日の話ですよ。いっぺんにたくさんを買うわけじゃなくて、本当に食べるだけを毎日買ってくださっているような方です。今日は焼きそばパン、次の日はタマゴサンド、といったふうに。
――いいですねえ……心から、うらやましく思います(笑)
弟さん:そういう方が、たまにお見えにならなくなると、やっぱり気になってしまうんですよ。お身体でも悪くしたのかな? ってね。そういう長いつきあいができていることは嬉しいですね。さっきの子供の話もそうですけど。
――最後に、JIMO-TOshima読者の皆様にメッセージをお願いします。
弟さん:毎日でも食べられる値段のパンを作り続けていきます。この店の味を守っていきます。良かったら足を運んでみてください。
職人らしい実直さと穏やかさのある弟さん
――継続は力、ということですね。
弟さん:なにぶん、設備も人手も限られているものですから、1日に造れるパンの数は限られています。それでも、ありがたいことに通って下さるお客様方がたくさんいます。「ハラダ」の味を気に入ってくれる方々を大切にしていきたいです。できる限りはやります。一日一日、精一杯、作れるものを作り続けていきます。できるだけ変わらない味を提供することをがんばりたいです。
――本日はありがとうございました。
弟さん:ありがとうございました。
以下文末
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◆ベーカリーハラダ(Bakery Harada)
◆住所 171-0051 東京都豊島区長崎2-27-20
◆電話 03-6908-2544
◆営業時間 8:00~19:00
◆定休日 月・火・日・祝日 ※不定休あり・詳細は店頭カレンダー参照
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ペンネーム:カキザキ祥天 自己紹介:豊島区生まれ、豊島区育ち、豊島区在住のスーパートシマッカー。路上観察と散歩とランニングが趣味。豊島区の今昔をつなげる表現に生きがいを感じて活動中。 |
電話番号:03-3981-1316