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更新日:2025年6月26日
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お多福豆の長府屋
そう言われてピンと来ない人。寄ってきてください。
この記事はあなた方のために書きました。
ことによると人生ちょっと豊かになるかもしれません。ならなかったらすいません。
おたふく豆は大粒のそら豆を甘く煮た料理です。
ただ、すご~く甘いので、正月に食べる黒豆くらいにはスイーツ寄りの料理だと思ってください。
この食べ物の老舗がなんと我が豊島区にあるのです。
長府屋。
創業大正七年。
大正七年!?
西暦で言うと1918年ですね。
おわかりになりましたか。
そうです。なんとこのお店、百年以上前からそら豆を煮ています。
子供のころ、父親が嬉しそうにここの「お多福豆」を買ってきては、つやつやと光る赤黒い粒を嬉しそうに食べる様子を見ていました。当時は幼かったので「豆か~! でも豆って豆だよな~!」とぜんぜんピンと来ませんでした。
とはいえあれから幾星霜。
当時の父親と同じくらいの歳になってしまったせいか、あの豆の味が気になって気になって仕方なくなってきたのです。
というわけで、行ってきました。
ほんのりメルヘンな雰囲気の店頭
場所は住宅街の一角。
ここに知る人ぞ知る名店があるんですよ~!
と言っても信用してもらえなさげなロケーション。
そんな所に驚異の老舗がちゃーんとあるのです。
すがすがしいくらいに見た目がカジュアルで洋風。
ペンションか? という印象すらあります。
人を選ぶような老舗感が無いので安心して引き戸を開けられますね。
入ってみるといい香り。
なんだろう?
と思って振り返ってみると、ショーケースにかざられた「コワレ」という商品から漂っているもののようでした。
煮豆特有のやわらかく甘い匂い。
ほんわかと心を温めてくれるような、とろけさせてくれるような幸せの香り。
――これは間違いない。
そんな直感をひらめかせる何かがありました。
店内の小机にある呼び鈴を鳴らし、いかにも職人愛想良いおかみさんからお多福豆(30粒入り・税込900円)をゲット。
さっそく家で食べてみることにしました。
原材料は上白糖とそら豆と重曹のみ
「長」の上に「へ」を書いたようなロゴがいわゆる屋号というものなんでしょうか。
歴史を感じさせます。
赤茶色の厚紙に白色刷。
高級感がじわじわきますね。
開けてみると、
つやつやテカテカの豆肌にうっとり
ひしめききあった豆・豆・豆。
想像以上の存在感です。
ふうん、とたちのぼってくる香り。
お店の中でただよっていたものと同じ匂い。
同じ匂いですが、距離がかなり近くなったせいか、スイーツとしての自己主張が強烈です。
さらに言うなら、その香りが複雑。
私自身、黒豆を煮たことがあるのでわかります。
乾燥したそら豆(ボリビア産)を水に浸し、上白糖で煮たくらいで出せるものではありません。
あれ、なんだろ?
どうやったらこんな香りの煮豆にできるのか分かりません。
分からないから、とりあえず口に入れてみることにします。
豆の表皮につぷりと歯が入ります。
もったり。
ぐんにょり。
はてしなく柔らかい。
驚いた。本当に柔らかい煮豆です。
重曹のおかげかな?
皮を食い破った先はひたすらになめらか。
豆きんとんや栗きんとんとかのきんとん系を食べている時の感じです。
上等のあんを皮でコーティングしてみました!くらいのインパクトがあります。
しかし、味は白あんとはくらべものになりません。
とはいえ、じゃあどんな味? と聞かれても「甘く煮たそら豆の味」とは言いづらい。
なんて言えばいいんでしょう?
深みのあるコク。
ねっとりとした甘さを感じた次の瞬間、さらりと消えていく潔い甘さ。
鼻腔に抜ける香りは醤油のようであり、黒糖のようでもあり、キャラメルのようでもある。
伝わってほしい、この柔らかさ…!
たぶん、この味には長い時間が関わっているのでは?
そんな気持ちにさせる香りです。
しかし、ただのそら豆からこんな香りが出るものでしょうか?
「出せるか?」と聞かれたら、おそらく出せません。
私、気になります。
百年以上もの間、愛されている味の秘密はそこにあるのではないでしょうか。
もっと深く知りたくなりました。
豊島区の誇るべき名品の謎を解き明かしたくなりました。
こうして、取材班(わたし一人)は再び長府屋へ向かうことになったのです。
あらためて見るとけっこう凝った造りだ
――このたびは、快く取材を引き受けいただき、ありがとうございます!
長府屋店主(以下「店主」):いえいえ、こちらこそ。
――本日はよろしくお願いいたします。
店主:よろしくお願いいたします。しかし、豊島区が今はこういうことをしてるんですねぇ……(Webサイトを見ながら)
――お多福豆をいただいてみて驚きました。いわゆる「煮豆」のイメージをくつがえすインパクトがあったんです。子供の頃からこちらのお店は知っていたんですが、子供の頃ってあまり興味を持てなくて(笑)
店主:確かに、煮豆の味って若い頃は分かりにくいかもしれませんね。ただ、最近は子供さんなんかのファンも増えてきてくれて嬉しいですよ。
――こ、子供が……煮豆を買いにくるんですか……?
店主:ハハハ、いやあ、親御さんを連れてきてくれるという感じです。
――子供さえもファンにする。このお店の「お多福豆」の味はどうやってできたんでしょうか?
店主:爺さんの代で完成したようなものです。それからは一切、味を変えていません。爺さんはすごい職人でした。九州で奈良漬けを付けさせたら3本の指に入るくらいの人だったとか。
――すごい方だったんですね。しかも、九州から……それから戦争を乗り越えて今に至るまで続いていることも、また同じくらいスゴイ。
店主:親父もすごい人でしたよ。この味を東京で広めたのは親父かな。親父には九州は狭すぎたのかもしれません。東京へ乗り込んで商売を始めたんです。築地の珍味屋やらどこやら、あっちこっちへ持ち込んで営業していたようです。
――それで、お得意先が増えたことが今に繋がっているのですかね?
店主:そうですね……当時は景気が良かったから(笑) 料亭やら結婚式場やらで使ってもらって、この味に惚れてくれる人が多かったようですよ。今日も、わざわざ浜松から訪ねてくれたお客さんがいました。うれしいもんですね。
店内にはお得意様から贈られたという絵ハガキが
――ズバリ聞いてしまいますが……この味はどうやってできているんでしょうか?
店主:ハハハ、それはさすがに……秘密としか(笑) ただ一つ言えることは、この味は誰にもマネできないということです。料亭の板前さんからもよく聞かれたものですが、他で再現することはできないと思います。この1粒1粒のために5日ほどかけているんですから。
――5日も!? それだけの手間がかかって、ようやくこの味が出るわけですね。
店主:そうです――この豆、柔らかいでしょう? 口に入れると皮が残らずにとろける。ただ、これは爺さんから続く味を正直に続けているだけ、としか言いようがありません。うまいですよね。私も自分で味見していて「うまい!」って思っちゃうくらいですから(笑)
――創業以来、実に百年以上もの商いを続けてこられた秘訣はなんでしょう?
店主:それはお客さんがこの味を愛し続けてきてくれたおかげでしょうね。今でもウチの味に「感動しました」っていうお客さんが何人も来てくださる。昔から買い続けてくれているお客さんも多い。お得意様のおかげですね。お客さんが喜んでくれるのがうれしくてこの商売をやっているものですから。
――なるほど。この千早の地も根付いた味となっているわけですね。他にはどういった理由が考えられますか?
店主:やっぱり味でしょう。味にこだわるため、受け継いできたやり方を変えないことだと思います。私の知る限り、九州の本家はもう無くなってしまったとか。その原因は「味」を変えたことだと聞いています。このなんでも変わってしまいがちな世の中で、一つの味にこだわり続けたからこそ、長く愛し続けてくださるお客さんがたくさんいるんだと思いますよ。
――千早の地に根付いた老舗「長府屋」のこれからについて教えていただけますか?
店主:正直、先はどうなるか分かりません(笑) 私も年ですから。ただ、働けるうちは働き続けるつもりです。
どんなポーズも不思議とキマる店主
――商売をする上で大切にしていることがあったら教えてください。
店主:私の信条は「継続は力。正直に働けば間違いない」です。この気持ちを大切にして、これからも丹精込めて、お多福豆を作り続けていくつもりです。
――それでは最後に、このインタビューをご覧になる皆様に伝えたいことがあったら教えてください。
店主:ぜひ、豊島区千早の長府屋へ足を運んでみてください。そして、できたてのお多福豆を召し上がってみてください。これはちょっとやそっとで出せる味じゃありません。ご期待に応える自信があります。
――本日はありがとうございました。
というわけで今日も買ってしまいました(笑)
https://chofuya.co.jp/shop.html
住所 〒171-0044 東京都豊島区千早2-24-8
電話 03-3957-5026(代)
FAX 03-3957-5932
営業時間 9:30~18:30
定休日 日曜・祝祭日・年末年始
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ペンネーム:カキザキ祥天 自己紹介:豊島区生まれ、豊島区育ち、豊島区在住のスーパートシマッカー。路上観察と散歩とランニングが趣味。豊島区の今昔をつなげる表現に生きがいを感じて活動中。 |
電話番号:03-3981-1316