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図書館通信第66号(2023年冬号)テキスト版

巻頭言

「区立図書館で出会ったオーケストラ練習風景」 豊島区図書館専門研究員 水谷千尋(みずたにちひろ)

70余年前、戦後間もなくの体験であるが、今日なお思い出して、当時の情景に身を晒し、熱い心を馳せることがある。
戦時中B29の空襲から免れた数少ない東京郊外の住宅地に、大正デモクラシーの象徴というべき、瀟洒な西洋館が、戦後に区立の図書館として再スタートした。東横線始発渋谷駅から3つ目の祐天寺駅近くの守屋図書館がそれである。戦後守屋さんという実業家が広大な木造家屋敷を目黒区に寄贈し、その名を記念し冠した主要な区立図書館として、鉄筋2階地下1階に改造、今日いよいよ区民に活用されている。
昭和30年代末、私たち高校生は、帰校後、夕方までここで過ごした。2階和室の畳に寝そべって井上靖の新作短編『闘牛』などを読みふけった記憶がある。ある日の午後1階のホールで、予想だにしない出来事に出会った。弦楽器、管楽器などを抱えたオーケストラの一団が入ってきた。演奏準備完了、指揮棒一閃、ベートーベン交響曲第8番の演奏が始まった。第1楽章の最終部へ、その数小節が終わった途端、指揮者は、全員に「あぁ、くたびれた」と発した。「演奏の出来悪し、やり直し」との叱責語かと一驚したが、言葉のニュアンスは真逆であった。「くたびれるなぁ」と、心でつぶやき演奏を高める逆転効果を演奏者全員に助言している様子であった。魔法の如き惹句の効果なのだろうか、演奏はますます高揚、僕たち聴衆の心を陶酔させていった。見事な魔術を指揮棒の先端に込め妙音を紡ぐ指揮者は沖さんといった。演奏は、宮内庁雅楽部オーケストラと教えてくれたのは馴染みの守屋図書館員のお兄さんだった。
戦後の混乱期には、現代では到底体験できない不思議な“僥倖”があり、出会い豊かなドラマを生んできた。今日では、区立図書館ホールに宮内庁のオケが練習にやってくることはあり得ない。そのオケの生演奏を友人とたった二人で臨場鑑賞することも金輪際あり得ない。指揮者のオケ指導の屈託ないセリフを真近に聞きとれたのは、戦後の混乱期特有の“天与の贅沢”ではないのか。戦後の貧しさの中に潜む豊穣さ、その反語的感懐を抱いて、今日、それを感謝に近い情感にまで高めて回想している。
今日豊島区でも“天与の贅沢”体験を得ている。2007年、東池袋ライズアリーナビルに、中央図書館と劇場あうるすぽっとが活動を開始、中央図書館開催の講演会やゼミが劇場講義室で開催されてきた。劇場では蔵書シナリオがドラマ上演された。活字の世界とドラマ空間とが立体的協働イベントを創造するなど、こんな文化的“贅沢”がありえようか、全国的に類例を見ない。天与の贅沢ならぬ、”豊島人知の贅沢“である。豊島区制90周年、”豊島人知の贅沢“は100周年に向かって輝きを増していく。

プロフィール
1937年(昭和12年)生。東京大学農業経済学科卒。学研教養図書出版室編集長。歴史書・美術書を編集制作。自然科学出版社株式会社秀潤社社長。2006年(平成18年)より現職在任。

記憶のなかの人たち

最終回「もうひとつの記憶・我が故郷」NPO法人「としまの記憶」をつなぐ会 副代表理事 小櫻英夫(こざくらひでお)

記憶の人々を描き続けたコラムの最終回。故郷の土地の記憶を書いて終わりにしたい。それは、私の通った高校がある福岡県の筑後川近くの町。
1軒だけの本屋「文林堂」。昭和30年代の日本。地方にも活気が溢れていた。町の中央商店街にはアーケードの屋根があり、30軒ほどの店が並んでいた。中でも洋風の「文林堂」は3階建てでひときわ目立っていた。放課後には、自転車通学の生徒で溢れ、数時間後には教師達も立ち寄る。1階が書籍売り場。コミックなどは勿論無く、ほとんどが、ハードカバー。高校生向けの受験雑誌『螢雪時代』などは参考書と共に入口の一角に並べられている。圧巻は2階である。螺旋階段を上ると中央を大きく占めるのがグランドピアノ。周りに楽譜と管楽器などが並んでいる。学校にもグランドピアノは無く、研修中の若い女性教師が弾くのを合唱部の女学生が囲む。遠くからながめる男たち。当時のベストセラー石坂洋次郎の青春世界がこの町にもあった。そして半世紀。アーケードはすでに無く、「文林堂」は駐車場と化した。
「ついでに知った事ほど、本当は大切だ」
学校帰りに毎日のように立ち寄った「文林堂」と図書館で私はこのことを発見した。本が林の如く並んだ店頭や図書館。一冊の本を探して歩くうちに、お目当ての近くでみつけた一冊。それが、未だに読み続ける一冊となっている。私は卒業後、民間テレビ局に就職した。活字から映像へと表現手段は変わったが、「ついでに知る事」に本質が潜んでいることをここでも経験する。北朝鮮に長く拉致されて帰国した蓮池薫さん。秀れた文筆家であり、朝鮮文学の翻訳はもちろん自らの体験を書いたノンフィクションなど、多くの著作を出されている。その一冊に、次のような記述がある。拉致から数年後、教育プログラムのひとつとして、南(韓国)のニュース映像を見せられた。1980年の光州事件。民主化を求める学生を鎮圧する軍隊。「南はひどい国だ。それにくらべて北はいい」と話す指導教官。蓮池氏は「南の若者は良い服を着ている。体格も良い。自分とは大違いだとショックを受けた」と。それは映像によって「ついでに知った真実」だったと言う。
私はいまも暇にまかせて、図書館の棚をさまよい、本屋の店先で時間を潰す。

プロフィール

1942年(昭和17年)大阪生れ福岡育ち、1965年(昭和40年)TBS入社ラジオ・テレビの制作担当、2009年(平成21年)大正大学表現学部教授。プロ野球「西鉄ライオンズ(現西武)」を愛し続ける九州男の気質が抜けない。大正大学の学生たちとNPO法人「としまの記憶」をつなぐ会の映像制作を続けている。

第59号から連載が始まった小櫻英夫さんの巻頭こらむが本号で最終回となります。第67号からは新執筆者によるエッセイが始まります。

図書館と私

まちの中での場の創出最終回「本と共に心と心を交わす場所柔らかい『輪』が生まれる場所」 豊島区立巣鴨図書館司書

皆さんは、これからの図書館にどのようなことを期待されますか?図書館は人と本とを繋ぐ「場」、それは今までもこれからも変わることはありません。ですが今、豊島区立図書館は、人だけでなく、地域や文化施設、企業など、もっと多くのものを本によって繋ぐ、大きな『輪』になるために転換しようとしています。
図書館では今年、『にぎやかな公共図書館』というキャッチフレーズのもと、基本計画を策定いたしました。「あれ?図書館なのににぎやか?」と不思議に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は私もその一人でした。ですが、ここでのにぎやかというのは騒がしいという意味ではありません。誰でも気軽に使うことができる、いきいきとした場でありたい、という姿勢を表した言葉なのです。例えば、前号でもご紹介したような公園に本を運ぶという活動に加えて、デパートの屋上でおはなし会を開催しています。また、ファーマーズマーケットでは本のリサイクル市、博物館や商業施設とはコラボイベントをと、図書館から飛び出して、地域に根ざした『輪』を広げようと動いています。これらの活動も、一人でも多くの方に本に親しんでいただきたいという思いからです。と同時に、魅力的な図書館であるためには、地域の力を活かし、街に開かれていくことが必要だからです。
私が勤務する巣鴨図書館では、前庭で花や野菜を育てています。素人の私達が世話をしているので、間違えることもしばしば。そうすると、植物に詳しい利用者の方がアドバイスをくださったりもします。カウンターでも「あの花がきれいに咲いた」とお声をかけていただくことも。こんな小さな結びつきからも、地域の皆さんの憩いの場所になっていけるのかもしれません。図書館とは、人や地域を本だけでなく心でも繋いでいくものなのではないでしょうか。本と共に心を手渡す、その柔らかい『輪』が広がっていくにぎやかな図書館の未来に、今からとてもわくわくしています。

生涯の一冊『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎・古賀史健著 ダイヤモンド社 2013年

新成人の一冊「自分らしくいること」2023としまはたちのつどい企画検討会メンバー 足立愛恵(あだちめぐみ)

私は保育園・小学校時代に1学年20人もいない家族のような小さな世界で生きていました。そこから中学・高校にあがり140人・240人と人数がどんどん増えていき、人見知りだった私は新しく友達を作るのに苦労しました。一日学校で一言も言葉を発しない日もありました。そんな時に出会った私にとって大切な本が、岸見一郎と古賀史健が書いたアルフレッド・アドラーの「アドラー心理学」を解説している『嫌われる勇気自己啓発の源流「アドラー」の教え』という本です。
この本をはじめて読んだのは私が高校1年生の頃で、私が人間関係で悩んでいることを知った友人が勧めてくれた本でした。この本は高校時代何度も繰り返し読んだ、私にとって支えになったと言える本です。当時本を読むのがあまり好きではなかった私は最初読むことにあまり乗り気ではありませんでした。それでも、読み進めていくと自分の考え方や捉え方が変わり気持ちが楽になりました。
この本の中で「課題の分離」について触れています。課題の分離とは、その課題が誰のものなのかを考えることです。例えば「相手を信じること」これは私の課題ですが、「私の期待や信頼に対して相手がどう動くか」は他者の課題であるということです。こうした他者の課題までをも荷物のように抱え込んでしまうと人生が辛くなってしまうので、「ここから先は自分の課題ではない」という境界線を知ることで人生を軽くできます。周りの目を気にして自分の意見が言えなかった過去の私に「今あなたが悩んでいることはあなたの課題ではないよ」と言ってあげたいです。他者は自分の期待を満たす為に生きている訳ではないし、自分は他者の期待に応えるために生きているわけではないのです。
この本は、周りを気にせず自分を信じて行動してよいと気づかせてくれました。私はまだ、20年間しか生きていないのでこれからもっとたくさんの本を読み、「生涯の一冊」を見つけていきたいと思います。

プロフィール

2002年(平成14年)豊島区生まれ。小中学校6年間を豊島区立の学校で過ごす。現在、東京理科大学の2年生。小さい頃からスポーツが好きで、今も大学で水泳サークルに入り活動している。

この本カフェ

寄稿者はとしまコミュニティ大学の内、登録して学んでいる「マナビト生」です。マナビトゼミ担当・当中央図書館開催の書評講座講師の佐藤壮広氏の監修のもと、毎回テーマに合わせて文学、児童書、科学や評論などの分野のお薦め本を紹介しています。

30杯目「ふくろう」

JR東日本池袋駅構内に石像「いけふくろう」が設置されたのは、1987年のこと。以来、待ち合わせ場所として親しまれている。
ふくろうは、ギリシャやローマの神話では知性や芸術を象徴する生き物である。本を読む文化は、「いけふくろう」を擁する豊島区池袋にこそふさわしい。

 

書名『ハリー・ポッターと賢者の石』J.K.ローリング/著 松岡祐子/訳 ダン・シュレシンジャー/絵 静山社 1999年12月

20世紀の末からたくさんの人に読み続けられ、映画や舞台作品にもなっている「ハリー・ポッター」の孤児のハリーは11歳で魔術学校に入学する。魔法使いとして成長し、両親の仇と戦い、強く生きる。彼のペットである白フクロウの「ヘドウィッグ」は生涯を通して忠誠を示し、ちからになる。魔法界の伝書鳩のようなふくろう便。人間と動物を越えた友情に感動!
「夢と希望」まさに異世界ファンタジーの醍醐味を堪能できる。【辻宏子(つじひろこ)】

書名『ちょっとだけまいご』クリス・ホートン/著 木坂涼/訳 BL出版 2012年10月

巣から落ちてお母さんとはぐれてしまったチビフクロウ。リスと一緒に森の中を探し回る。チビフクロウが巣から落ちる場面には、半ページ縦に切れた仕掛けがあり、またチビちゃんを探すお母さんの影がうっすら描かれているページもあって楽しませてくれる。
お子さんを膝に乗せて、一緒に笑ったりドキドキしたり〜チビちゃんがお母さんに出会えて抱き合うシーンで、ぎゅっとお子さんを抱きしめてあげたら、幸せ気分が倍増しますよ。【中冨邦子(なかとみくにこ)】

書名『フクロウの家』トニー・エンジェル/著 伊達淳/訳 白水社 2019年2月

フクロウ好きですか?絵は好きですか?図鑑は好きですか?全部盛り!
著者は作家、画家、彫刻家。彼の素晴らしいイラスト(約100点収録)だけでも堪能できます。ことの始まりはシアトル郊外の森の近くに引っ越して、窓から見える杉の木に巣箱を取り付けたらフクロウのつがいが来たこと。フクロウと文学、美術への影響、人間との共生、そして北米に生息する19種のフクロウの詳細な生態を記録した、愛と共感に満ちた観察エッセイ。【酒井一夫(さかいかずお)】

マンガ・アニメで多文化理解!?7つの国と地域の学生がお互いの文化を楽しみながら学び・共感したことは

「東アジア文化都市2019豊島」でも、西安(中国)と仁川(韓国)と豊島区をつないだ一つの文化が日本のマンガ・アニメ。多文化共生の視点で一度読み終わったマンガ・アニメを手に取ると…。そこには「相手を知る・自分を知る」新たな発見が!!

東京外国語大学オープンアカデミー短期日本語・日本文化研修プログラム「アニメ・マンガを使って探究をしよう!」受講学生の連載コラム。2022年1月〜2月、東京外国語大学にてオンライン日本文化研修が実施された。国内外の学生がZoomで繋がり、アニメ・マンガから日本文化の特徴を探究した。

最終回「『鬼滅の刃』研究から、大正時代の文化融合発見!」東京外国語大学言語文化学部卒業生 高藤郁咲(たかふじいくえ)

私は、『鬼滅の刃』から日本文化を探究することで、この作品の舞台である「大正時代」のある特徴的な側面を発見することができた。それは、大正時代に見られる文化の融合は、おしなべて、西洋の要素が強い形で進んだということだ。この背景には、明治時代の文明開化が大きく関わっている。明治時代に、人々は西洋に憧れを強く抱き、西洋文化を受け入れた。その風潮が大正時代まで続いたため、この時代に文化融合したものは、西洋の要素が強く出たのだと考えられる。西洋に寄せる形で文化融合が進んだ例として、洋食が挙げられる。洋食の代表、「オムライス」、「コロッケ」、「カレーライス」などの料理名には、日本語ではなく、西洋の言葉が使われている。見た目においても、日本の「和」の要素が見当たらない。このような大正時代の「自文化の要素を最小限にし、他文化を前面に押し出す」という特徴は、一緒に研究を行ったグループメンバーの国(大正時代と同時期の韓国、ベトナム、ブラジル)では見られなかった。そのため、これは、この時代の独特のものであるといえると思う。このような文化融合の例をたくさん探すことができるのは、『鬼滅の刃をもっと楽しむための大正時代便覧』である。この本では、『鬼滅の刃』で見られる例を切り口にして、大正時代の服装、建築、食べ物などが詳しく紹介されている。そのため、この本は「アニメ・漫画を通して日本文化・社会を知る」に最適なので、ぜひ手に取って、読んでもらいたいと思う。
私は、プログラムの中で、多様な文化背景を持った学生と研究したおかげで、自分だけでは気づけなかったような日本の特徴を見出すことができた。というのも「日本人」とは違った視点を持つ彼らが、自分の国と日本を比較し、相似点や相違点を発見してくれたおかげで、客観的に日本文化・日本社会を眺めることができたからである。非常に貴重な体験だった。
そして、プログラムを通じ、私は、ある重要なことに改めて気付かされた。それは、当たり前に聞こえるかもしれないが、「丁寧に順を追って、自分が思っていることを話す」ということだ。というのも、普段、家族、友達などの「同じ文化背景を持つ」人との会話では、自分の意図していることが伝わっているかどうかを不安に感じたことがなかった。しかし、今回のプログラムでは、それが伝わっておらず、話し合いがうまく行かないという場面がしばしばあった。そのため、人とのコミュニケーションにおいては、自分が思っていることを、丁寧に順を追って話すことが、重要なのだと改めて感じた。そして、自分が思っていることが相手に通じて初めて相互理解が始まると思われるので、様々な文化を背景に持っている人々が共生し、互いに理解し合える社会の実現には、これが重要だと思った。
監修 東京外国語大学大学院国際日本学研究所准教授 幸松英恵(ゆきまつはなえ)

プロフィール

専門は日本語学。豊島区図書館経営協議会委員。

図書館から見る豊島区の歴史

図書館というものは、これまでどのような道をたどり、今後どのような役割を果たしていくのでしょうか。区制施行90周年を迎えた豊島区の区立図書館が歩んできた歴史を振り返り、未来へ向けた展望をご紹介します。

最終回「豊島区立図書館の未来『にぎやかな公共図書館を目指して』」豊島区立中央図書館長 倉本彩子(くらもとさいこ)

平成29年4月、「豊島区立図書館基本計画」がスタートしました。「子どもから大人まで知的好奇心を満足させる図書館~区民の学習・情報センターとして」を基本理念に掲げ、来館者、貸出冊数、登録者数、蔵書数を増やしていくことを目指しました。
この年、区立図書館全体の来館者数は2,088,598人、貸出数は2,238,171冊と多くの方に利用していただき、着実に計画が進みました。
ところが、新型コロナウイルス感染症の流行。誰でも自由に利用できるはずの図書館は、これまでに経験のない、「利用制限」を実施せざるを得ない状況になりました。図書館内は返却された本であふれ、おはなし会もない、書架にも入れない、閲覧席も使えない図書館の日々。私たち職員も先行きが見えず、「この状況がいつまで続くのだろうか」ととても不安でした。
しかし、振り返れば、この経験は改めて図書館の意義を考える貴重な機会でした。休館中、「図書館を開館してほしい」という声を本当にたくさんいただき、こんなにも図書館を必要としてくれる人がいるんだと、とてもありがたく思いましたし、みなさんコロナへの不安や感染防止対策で大変な状況にも関わらず、多くの方が図書館の必要性を言葉にしてくださったことで、緊急事態宣言が繰り返される中でも「図書館は開館」の方向に変わっていきました。
ただ、図書館には、子どもの姿がめっきり少なくなりました。これまでのように、部屋に集まってワイワイ楽しむイベントや、大勢の子どもたちでにぎわうおはなし会の再開は難しく、とても寂しい図書館になってしまいました。
今まで当たり前のようにできたことができなくなっている、でも、新型コロナウイルス感染症の流行が3年と続くと、生まれたての赤ちゃんも3歳になります。子どもの文字活字離れが課題と言われる中、このままではいけないと、図書館だけでなく多くの人が子どもの未来、そして日本の将来を心配していたと思います。
令和4年3月に改定した「豊島区立図書館基本計画(第二次)」は、こうした様々な経験を踏まえ、「にぎやかな公共図書館をめざす」サブ理念を明記しました。

赤ちゃんから大人まで、多くの人に来てもらえる図書館をめざす。本が人と人をつなぎ、図書館が家でもなく職場でもない、本を通じた第三の居場所「サードプレイス」になれたらと思います。小さな子どもが面白い本を見つけて思わず笑ったり、兄弟で本を読み聞かせたりする場面、とても区立図書館らしい、温かい景色です。「こんにちは」のあいさつ、新聞や雑誌をそっとめくる音、静かだけどにぎやかで明るい、「音」のある公共図書館、みんなでつくるみんなの図書館をめざしています。「なんだか、ほっとするなぁ」と感じる、お互い様で温かい図書館。このイラストのように、図書館は外にも出かけていきます。そんな図書館になれたら、にぎやかな公共図書館の完成です!

豊島区制施行90周年記念最終号「図書館通信」へのメッセージ

「本と図書館がつなぐ、『ひと』『未来』」株式会社サンシャインシティ代表取締役社長 合場直人(あいばなおと)

豊島区制施行90周年の一年は、長きにわたり紡がれてきた歴史や文化、地域活動など、豊島区の多くの財産をこれまで以上に肌で感じています。そしてその懐の深い土壌で新たな文化や活動も生まれ、次の100周年に向けて期待が膨らむ、実り豊かな一年と感じるばかりです。
サンシャインシティは、これまで見守り育てて下さった皆様のお陰で、今年、開業45周年を迎えます。社史を紐解くと、社の設立当初から「児童を中心とした、未来に向けた『ひとづくり』」が理念の一つにあり、現在まで「なんか面白いこと、ある。」をスローガンに、ハード・ソフトの両面から文化・文教面にも力を注いできました。こと「本」「図書館」に関しては、昨年度、若手社員が中心となり「サンシャインシティ絵本の森」という家族向け企画を開始しました。絵本を読んだり、読み聞かせを楽しんだりできる広場を設け、多くの方に親しんで頂いており、また、お客様の家庭にある絵本をお預かりして子ども家庭支援センターにお渡ししたり公園等でお配りしたりと、本を通じて地域の輪が広がればという思いを込めた活動をしています。利用される方の笑顔に触れる度、私自身も嬉しさが増すと同時に、本の魅力と可能性を大きく感じます。
本や図書館は、歴史や文化を受け継ぎ、地域社会や自身と深く向き合える魅力があります。そして今、さらに願うのは、本や図書館を通して益々豊かな出会いやコミュニケーションが生まれてほしい、ということです。区制施行100周年に向けて、いま豊島区は、「ひと」が中心のまちづくりが大きく進んでいますが、歴史や文化の宝庫である本や図書館を通じて「ひと」と「ひと」がつながり、その輪が広がるまちと未来を、皆でつくっていければと思います。

プロフィール
1954年(昭和29年)、東京都生まれ。小樽商科大学卒。三菱地所株式会社で横浜・丸の内など数多くのまちづくりプロジェクトに携わり、2018年(平成30年)より現職。趣味は街歩きで、豊島区の区境もぐるりと一周制覇。

「図書館の仕事は面白い!」葛飾区副区長 植竹貴(うえたけたかし)

昨年の豊島区制施行90周年、おめでとうございました。元職場の豊島区が更に発展されますよう祈念いたします。
さて、タイムマシンに乗ったように時代を遡っていくと・・・。
19年前、私は豊島区の中央図書館長に着任した。今振り返ると図書館の仕事は面白い。それなりに頑張れば何とかなる仕事かもしれないが、突き詰めて頑張ると終わりがない仕事である。正解がないから面白い。
例えば購入図書の選書。人気本を果たして何冊まで購入するか。高価だが貴重な学術本、今後数年で数人の学生しか読まないかもしれない本を購入するか。選書ひとつ取っても正解はない。図書館運営にしても、公務員が運営する所があれば、民間委託や指定管理者による運営もある。開館日も元旦に開館する所があれば、年間開館200日を切る私立図書館もある。図書館運営にマニュアル的な正解はない。そこで、どこの自治体も、図書館の基本を踏まえつつ、独自の考えで運営内容を永遠に微調整し続けているのだ。
ところで、館長は現場の司令官として運営面での設計図を描く立場だ。しかし、粗い図面は描けても館長だけでは何も進まない。設計図を仕上げて実際に動かすのは職員だ。私は別の自治体から来たので役所の人を知らなかった。そこで、全図書館員と面接して「〇〇分野に詳しい人が今どこにいる」「あそこに元図書館員がいる」などの情報を収集した。こうして新中央図書館の開館準備や、既存の図書館を前進させるための人集めをした。現役の館員も大きく配置し直した。
19年前は財政状況が厳しく、常に金策を考えながら運営内容を決めていた。ちょうど新中央館の書架設計の最中だったが、書架も備品も結構な金額になった。また、地域館の運営等を検討している中で、将来の地下鉄新駅の出口を考え、雑司が谷図書館の図書貸出コーナーへの切り替えを検討開始させて頂いたりもした。
思い返してみると悪戦苦闘する場面が多かった。今だから面白いと言えるので、あの頃の私がこれを読んだら違う反応かもしれない。最後に間違いなく言えること。私が何とか図書館を運営することができたのは、もう現場職員の奮闘努力のおかげとしか言いようがない。図書館運営に正解はないが、図書館はやっぱり人だ。人次第で面白くなるのだ。だから今、当時の豊島区の図書館メンバーに感謝したい。ありがとうございました!

プロフィール
1988年(昭和63年)、葛飾区入区。2004年(平成16年)から2年間、豊島区の中央図書館長を務める。その後、葛飾区の文化国際課長や区長室担当部長等を経て、2022年(令和4年)より現職。

図書館通信

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電話番号:03-3983-7861

更新日:2023年1月5日