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更新日:2025年6月26日
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11月の「としま文化の日」に合わせて、大正大学附属図書館では豊島区立図書館と共同で「にぎやかな図書館祭」を開催しています。今年度は4回目の開催となります。昨年度は、豊島区立図書館の司書によるお話し会のほか、図書館ツアー、IKEBUS試乗会などが実施され、多くの子どもたちや保護者に参加いただきました。大正大学附属図書館には絵本などの子ども向けの本が1,000冊あり、今後も増やす計画です。地域やさまざまな機関との連携を積極的に進めています。中高生(無料)、一般(有料、1年間3千円)で開放しています。
経済的な格差が進み、孤独や孤立も深刻な社会になっています。そのような社会にあって、これからはお互いをできるだけ尊重し、さまざまな人々が許容し合える社会をつくっていくことが大切です。図書館には、そのような社会を作るための一助となり、「つながり」を導き出す場所となっていくことが求められます。
私は豊島区の図書館が、区民の自発的で自律的なボランタリーな気持ちを持った人びとが運営に関わることも大切だと考えています。その先例は地域運営学校(コミュニティ・スクール)にも学ぶことができます。地域の多くの人たちが学校の運営に関わっています。学校が人と人とをつなぐ場所になっています。かつては自然発生的に小学校が地域の拠点になっていました。しかし、地域社会のつながりが薄くなったいま、何らかの「しかけ」がなければ、人びとのつながりは生まれにくいでしょう。図書館にも同じことがいえます。
人と人とがつながるためには、ゆるやかで、そして、同時に柔らかな心が求められます。固い心はひとを跳ねつけて、外に出し、排除してしまいます。
私は豊島区立図書館が、区内の学校図書館、書店や大学図書館、子ども文庫や子ども食堂などとも連携しながら、本を介して、さまざまな人びとが集い合い、語り合い、学び合うコミュニティをつくっていくことを思い描いています。そのためには、「図書館の主人公は一人ひとりのあなた」となる必要があります。未来志向で、お互いを尊重し合える関係性を築きながら、包摂的な「みんなの図書館」に育てていくことが求められます。
プロフィール
1962年(昭和37)年東京生まれ。上智大学文学部、筑波大学大学院修了。博士(学術)。都立高校、都立中高一貫教育校など4校で国語科教諭、東京都教育委員会指導主事、日本女子体育大学教授、附属図書館長を経て、2020(令和2)年より大正大学教授、附属図書館長。専門は、国語科教育学、学校図書館学。主に戦後、戦前の読書指導について研究している。
私が小さかった頃、母がたくさんの絵本を用意してくれました。当時は、なぜ家にこんなにたくさんの絵本があるのだろうと思っていました。振り返ると、こうした絵本の体験は私にとって代え難い財産になっています。
この原稿の依頼をいただいた際、これまでに読んだ本を思い返し、最初に思い浮かんだのが『サラダでげんき』という絵本でした。幼い私はこの絵本が大好きで、何度も読み返したのを覚えています。
『サラダでげんき』は、主人公の女の子がある理由からサラダを作り始める物語で、この「何かを頑張る」女の子の姿が当時の私の心に深く残りました。何かに向かって頑張ることは、当たり前のようで大変なことで、忙しく過ぎていく毎日では、時折忘れそうになります。しかし、この本はそうした時の自分に頑張ることの大切さを思い出させてくれます。そして、どんなに辛い時も、自分を鼓舞してくれる励みになっています。
私の母はすでに亡くなっていて、母と話すことは叶いません。しかし、母が幼い私に与えてくれた絵本の体験は、今の自分にどんな時も頑張ることの大切さを思い出させてくれます。母への感謝を胸に、これからも日々を楽しく過ごしていきたいと思います。
プロフィール
東京都出身。大学で文章を書く勉強をしていたことからジモトシマライターに応募しました。取材などは未経験ですが、新しい挑戦を楽しんでいます。
※ JIMO-TOshima とは
街の中にある面白いものやお勧めしたい場所、新しいアクションを豊島区内で生活を営むライターさんの目線を通じて紹介します。ライターさんならではの感性で豊島区の魅力を発見していただき、国内外にそれを紹介、発信していくことを目的にしています。
世界を旅してきた筆者のインド旅行の様子を、おすすめ本と一緒に紹介していただきます。本を通じて新しい世界が見えてくる!
コロナ禍、円安、クーデターに戦争と、海外旅行をできない理由だらけだった2020年代前半。そんな中で、「2024年11月に、女一人旅でインドに行ってきました」。はたから見ると、「よっぽど勇気のある人なんだろう」と思われることの多い私だけど、ンドへの航空券を取得した時から飛行機が飛び立つ瞬間まで「怖い、もうやめたい」と思っていた。でも飛行機は飛び立った。そしてインドに着き、旅し、無事に帰国した。今の自分は、越えられないと思っていた山の向こうにいるように思う。
本を読む、ということは、この山を越えていくことに似ている気がする。最初のページをめくる前の自分が、山を登り、頂上に達し、山を下り、最後のページを閉じる自分になる。この短い本の旅の中で、見たことがなかった景色や、自分が知らなかった知識と出会い、ちょっと違った自分になっている。
「合う人と合わない人がいる」と言われるインドへの扉を開いてくれた本は、『河童が覗いたインド』(妹尾河童)。精緻なイラストとエッセイで構成されたページをめくるたび、インドを旅するような気持ちになった。生と死、浄と不浄がごったがえす聖地バラーナシーや、湖の真ん中に宮殿があるジャイプール……インドに魅了された。
そして20年前初めてのインド訪問。人が一人通れるような狭い路地を歩くと、牛とかち合う。バラーナシーのベンガリー・トラにあるほこりっぽいカフェの本棚に刺してあった日本語の本『アジアン・ジャパニーズ』(小林紀晴・90年代のバックパッカーの写真とエッセイ集)の中に「この世界にインドがあってよかった」という言葉があって、そっと心の中にしまった。
そして今回は5回目の訪問。河童さんの時代から変わらない風景も、ニョキニョキ生えてくるようなタワーマンションなどの新しいものもごった煮で、途方もないカオスを抱えるインド。それでも日々をパワフルに生きていく人々に魅了され続けている。
多様なインドを表す最近の作品として『インドの台所』(小林真樹)『南インド キッチンの旅』(齋藤名穂)もおすすめしたい。「ターバンを巻いた人がカレーを食べている」だけではなく、「お手伝いさんに故郷の味を作らせるお金持ち」や「牛を食べるキリスト教徒」や「魚売りのおばちゃんの昼ごはん」など、今のインドを台所から垣間見ることができる。
新しい自分や世界に出会えるという意味で、本と旅はよく似ている。
図書館通信が17年の歴史を閉じられる、その最後の号に記事を掲載させていただくという名誉な機会をいただきありがとうございました。形は変わっても、図書館通信は本の旅へいざなってくれることでしょう。
プロフィール
駒込在住。現地の空気感あふれるイラストやマンガが特徴。世界のおばちゃんやおじちゃん、家庭料理を描いています。著作『世界のおじちゃん画集』(しろいぶた書房)、『世界家庭料理の旅 おかわり』(イースト・プレス)など多数
寄稿者はとしまコミュニティ大学に登録して学んでいる「マナビト生」です。マナビトゼミ担当講師の佐藤壮広氏の監修のもと、毎回テーマに合わせて小説などの文学作品、絵本などの児童書、評論、実用書、エッセイ、科学に関する読み物などさまざまな分野のお薦め本を紹介しています。ぜひ図書館で借りて読んでみてください。
昔、「角瓶と文庫本持って旅に出る」というコピーのTVコマーシャルがあった。お酒と本を旅のお供にというそのセンスに痺れた記憶がある。本は手のひらにも乗り、鞄にも入り、いろんなジャンルの話を聞かせてくれる。旅はやがて終わる。でも本は、いつでも旅に連れ出してくれる大切な友だちだ。
書名『 風神雷神 Juppiter, Aeolus(上)・(下)』原田マハ/著 PHP研究所 2019年
日本美術に興味がない方でも、おそらく俵屋宗達の「風神雷神図屏風」を一度は目にしたことがある違いない。
もしも、少年俵屋宗達が信長の命により天正遣欧使節と一緒にイタリアに降り立っていたら…?日本の戦国時代、野望と強い志をもった少年宗達がルネッサンスイタリアへと展開し、様々な経験を通し成長し、そしてカラヴァッジョとの出会いが後に国宝となる「風神雷神図屏風」の創作へと繋がっていく。史実を織り交ぜ、大胆な発想で描かれた物語は、読者を壮大な古への時空の旅へと誘う。【 田丸 信子( たまる のぶこ)】
書名『 江戸の紀行文 泰平の世の旅人たち』板坂耀子/著 中央公論新社 2011年
一般庶民が旅に出かけるようになったのは江戸時代からと言われている。教科書には「入り鉄砲に出女」と、関所での取り締まりが厳しかったと書いてあるが、特に江戸後期になると実に多くの人々が旅に出かけていたようだ。その背景には、様々な紀行文の刊行、もしくは写本で市中に出回ったという事情がある。
本書は江戸時代の紀行文の魅力を余すところなく伝えてくれる。現在絶版であるが、区立図書館には所蔵されているので一読をお薦めする。【 渡邊 英信( わたなべ ひでのぶ)】
書名『 生きるとはどういうことか』養老孟司/著 筑摩書房 2023年
この本は、20年の間に養老先生が様々な媒体に寄稿した、自身の人生思考の「旅物語」である。講演やライフワークの虫採集で海外や日本全国を旅する養老先生は、旅先では必ず「生きているついでに本を読む」とのことだ。読書に夢中になり、列車で乗り過ごしたり、慌てて降りて忘れ物をしり、また本を入れた重い鞄を持ち歩き、五十肩なった事もあるという。
旅に集中すると、旅先で読書をしようという気にはなりにくい。しかし人生という「旅」の中では、本を読むこともその一部であることは確かだ。【 中村 伸子( なかむら のぶこ)】
全8回の予定であった本連載が、今回で突然打ち切られることになりました。実に不本意ながら内容に入れないままで中断されるので、仕方なく八犬伝結末について記しておくことにします。
『八犬伝』の八犬士が具足してから延々と続く対管領戦は、冗長な感じがしますが、近世軍記物語として読めば、それなりに興味深く読めます。
しかし、その後、敵味方の戦没者数万人の亡魂を済度するために、里見義成の所願として、ヽ 大法師(出家した金碗大輔)を導師として、彼岸七日間にわたる水陸の大施餓鬼を施行します。その一方で、戦場となった武蔵、相模、安房、上総下総で、軍役に疲れ果て、家を失い家族離散して飢渇疲弊した窮民には、米や金銭の施行が大々的に行われました。
また、仁義八行の八つの玉は人が生きる指針を示したもので、死者を追悼する仏会には相応しくないと、施餓鬼には、ヽ大が手に入れた「甕襲の玉」が用いられました。結願の日、読経の果てに偈を唱えると、その数珠の緒が断離て海へ入った途端に、波が逆立ち百千万の白小玉が白気と共に立ち昇り、金蓮金花となって中空に粲然と光り輝きました。やがて夕日とともに西に靡き消えてしまいますが、天には瑞雲があらわれ妙なる音楽が聞こえて、数万の亡魂が成仏するという奇特が示されました。
これは、明らかに冒頭の伏姫の切腹と八つの玉の飛散に対応する記述です。もし、ここで終わっていれば首尾一貫した里見八犬士のハッピーエンドとして完結したはずなのですが、実はまだ延々と続きます。
八犬士たちは籤で選ばれた里見家の八人の息女と結婚しますが、犬塚信乃には浜路姫、犬村大角には雛木姫と天縁に則した配偶を得ます。
以後、些細なことまで徹底した伏線回収が続きます。そして最後には、八つの霊玉の文字も、八犬士の身体にあった牡丹の痣子も次第に薄くなり消えてしまいます。ヽ大は須弥の四天神王の木像を作成し、その玉眼として八つの霊玉を用い、安房国の四隅に埋めて里見家の守護とします。
退隠したヽ大は、観音の化身であった伏姫神がいる富山の岩窟に入定します。八犬士たちも隠居して、女人禁制の富山に籠もって八犬士だけで共同生活を営みます。その後二十年を経て、なお顔色衰えず仙人の域に達した八犬士は、訪ねてきた子ども達に「里見家に内乱の萌しがあるので、自分たちは余所へ移る。子ども達も致仕して他国へ移れ」と諭します。
そして予言通りに里見家で内乱が起こりますが、六世里見義堯の世に至りやっと穏やかになり、二世の八犬士が呼び戻されますが召しに応ぜず、その子ら三世の八犬士が召し出されます。彼等の武勇智計も父祖に劣らず、その名を関東にあげました。里見家は、「その後十世の忠義に至るまで続いた」と記して 『八犬伝』はやっと完結したのです。
ところで、八犬伝には故事成語が良く使われています。全編を通じて「禍福は糾纏の如し、人間万事往として、塞翁が馬ならぬはなし。そは福の倚る所、将禍の伏する所、彼にあれば此にあり」と繰り返されます。
つまり、対管領戦では終わらず、延々と伏線回収を続け、三世の八犬士にまで言及せざるを得なかった『八犬伝』は、単なる勧善懲悪ではなく、〈有為転変する歴史〉こそが主題であったと読み解くことも可能だと思います。
編集部よりお詫びとお知らせ
髙木元先生にご執筆いただいている「南総里見八犬伝の世界」ですが、『図書館通信』の廃刊にあたり、今回が最終回になります。楽しみにされている読者の方々、またご執筆いただいた髙木先生に心よりお詫び申し上げます。
平素は図書館通信をご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。
平成19年7月より発行してまいりました図書館通信は、今号が最終号となり、令和7年7月より『中央図書館だより』を発行いたします。
読書が好きな方にもそうでない方にも、多くの方に利用され、あらゆる人にひらかれた「にぎやかな公共図書館」へと進化していく中央図書館のイベント情報や展示情報、読書活動に関する情報などを、より分かりやすくご紹介してまいります。
『中央図書館だより』も引き続きご愛読くださいますよう、どうぞよろしくお願いいたします。
本区は、将来のまちの姿を描く最高指針である「基本構想」と、その実現に向けた取組の方向性を示す「基本計画」を令和7年3月に策定しました。
この計画の中で、図書館は本の貸し出しや閲覧の場としての機能はもちろんのこと、人々の居場所や交流の場、そして物事を生み出す創造の場など、これからの時代に求められる、より開かれた多機能な、新たな地域の拠点となることを目指しています。
子どもから高齢者まで、孤独・孤立の問題が顕在化してきている時代だからこそ、図書館が区民の皆様の拠り所となり、本や人、新たな世界と出会える素敵な場所として、また「家庭や学校、職場でもない心地のよい第3の居場所」として、夢や希望をお届けできるような図書館にしてまいります。
「図書館通信」は終了いたしますが、今後は、このような新たな図書館の姿をお届けすべく、これまで以上に充実した発信をしてまいります。
これまで原稿を執筆いただいた皆様、読者の皆様に改めまして深く感謝申し上げます。
電話番号:03-3983-7861